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エリカ「あなたが勝つって、信じていますから」【後編】

262:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/05(火)00:13:28.87ID:A2if7Xi90
 グレンタウン。そこはカントー地方南西の火山島、グレン島の唯一の街。
 そびえ立つ火山を除けば、民家、グレンジム、ポケモン研究所、そして今では野生のポケモンが住み着いているポケモン研究所の廃墟、ポケモンやしきがあるのみの静かな街。
 レッドはギャラドスで上陸したあとさっそくグレンジムへと向かったが、ジムの受付の男性からカツラの不在を聞かされた。
「ん、ジムの挑戦者かい? すまないねえ。今休憩中で、カツラさんはポケモンやしきの方に行ってるよ。そうだ、休憩が終わるのももうすぐだし、カツラさんを呼びに言ってもらえないかい?」
「ええ。構いませんけど……。ポケモンやしきと言うのは?」
「昔、ポケモン研究所だった場所さ。事故で爆発があったとかで今は廃墟になっていて、野生のポケモンが住み着いてる。ほのおタイプのポケモンが出現するから、カツラさんもよくトレーニングに行っているんだ」
(ポケモン研究所の廃墟か……)
 その場所はかつては荘厳だった。豪邸と言ってもいい広さ、当時最先端の研究施設、そして新種のポケモンがいた場所。
 
 今は壁は崩れ地面に穴はあき、朽ち果てた研究器具と資料が散乱し、当時を知る人間も老いて人々の記憶からも風化しようとしている。
 そんな場所に、定期的に来る人物がいる。光るつるりとした頭と丸縁のサングラス、そして鼻と口の間から伸びる白い立派な髭。
 グレンジムリーダーカツラは、オレンジ色のたてがみをなびかせる大型の狛犬に似たポケモン、ウインディを伴って廃墟の奥に進んでいた。
(人の業、許される時は来るのだろうか、フジよ)
 カツラは廃墟の一室に入ると、ひび割れた机の上に転がっていた写真立てを手に取る。
(おや、まだこんな写真があったのか)
 ひび割れた写真立ての中の写真。若き日のカツラと、そして無二の友人フジ。肩を組んで朗らかに笑う二人、写真の中のシワの少ない顔とまだ豊かな頭部が、過ぎたった年月の深きを残酷に物語っている。
263:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/05(火)00:17:55.93ID:A2if7Xi90
 カツラはグレン島にポケモン研究所ができる前から、この島に住んでいた。それは当時とても珍しく彼を変人扱いするものもいたが、カツラの生来の明るさとポケモントレーナーとしての造詣の深さが、この島にやってきた研究員たちとカツラの関係を深くした。
 その中でも特に気が合ったのが、親友フジ。フジはグレン島にやってきた研究員の中でも特に優れた科学者で、得意分野は遺伝子工学。ポケモンの出生、進化の秘密を題目とした研究においては随一の科学者だった。
 フジの活気あふれる研究意欲に、カツラも協力した。純粋な欲求だった。ポケモンのことをもっと知りたい。ポケモンはなぜ生まれたのか、どこから来たのか、そしてどこへ行くのか。彼らにとって生活のパートナーを理解するための、あくまでポジティブな感情に満ちた探求だった。
 そしてカツラとフジの二人は、南アメリカのギアナへポケモン研究の遠征に赴いた際に、世紀の発見に成功する。
 普通のポケモンとは明らかに違う、はっきりとした形の手足と尻尾、そして流線型のフォルム。薄い桃色の光沢ある肌。羽を持たずに滑るように空を自在に飛ぶポケモン。
 紆余曲折の末そのポケモンの捕獲に成功した二人は、研究所でその生体を調べ、このポケモンが非情に特異な遺伝子の特徴を持つポケモンだということを解明した。
 まるで全てのポケモンのコピー、まるで祖先。発見されていたあらゆるポケモンの遺伝子配列データを持つこのポケモンを、フジは自然界では到底ありえない個体として突然変異体(ミュータント)、ミュウと名づけた。
 カツラを含めたあらゆるグレン島の研究者がこのポケモンに熱中した。あらゆる技を覚え、しかも高水準でこなすことができる。火を吐き氷を作り植物を生み出すポケモンなど、夢を見ているようだった。
 時が経つとある日、ミュウは子供を生んでいた。元々妊娠していたのかどころか、オスかメスかもわからなかった研究員達にとっては、意図せず大量の黄金を掘り当てた炭鉱夫よりも幸福だったに違いない。
 ミュウの子。名付けられた名はミュウツー。
 しかし、過ぎた幸運は諸刃であることを、彼らは身を持って思い知ることになる。
 ある日ミュウの子の処遇を聞いたカツラは、フジに激昂した。
「あの子の遺伝子を操作する!? 正気かフジ!!」
「正気さカツラ。あのミュウの子だぞ。我々が今まで培ってきた遺伝子研究を活かす時が来たのだ! 俺たち皆の力を合わせれば、誰も見たことがない最高のポケモンを作り出すことができる!」
「馬鹿を言うな! ミュウツーは命あるポケモンだぞ!? その遺伝子を身勝手にわれらが操作するなど……!」
「カツラ。俺達は誓ったはずだ。ポケモンの全ての謎を解き明かす。この機会を逃してどうする!? ポケモンの出産、次代への継承! 遺伝子の変遷! その全ての謎の答えの扉がミュウツーだ! カツラとてわかっているはずだ。ミュウは二度、三度として捕まえられるようなポケモンではない。我ら研究者がこの機を逃してどうする!? それとも、今更生命への冒涜だとでも抜かすきか? お前だってポケモンに使う薬の臨床試験がいかにして行われているか、知らないはずがあるまい! それと違うとでも言う気か……!」
「……それは……!」
「とまるなカツラ。俺達はどこまでも進むんだ。ポケモンの謎を解き明かすために……!」
 カツラは己に沸き起こった道徳観念を胸の奥にしまい込み、無視した。
(……フジの、言うとおりかもしれない。我らの研究は、全てのポケモン研究者たちにとっての悲願だ。もしミュウの秘密が解き明かせれば、ポケモン研究は10年、いや100年進むと言っても過言ではない)
264:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/05(火)00:19:51.95ID:A2if7Xi90
 ミュウツーは日に日に成長していった。
「すごい……! ミュウツーのサイコキネシスはフーディンの10倍の数値を記録しています!」
「ミュウ程多くの技は覚えられないけど、自己再生能力も耐久性も他のポケモンと段違いだ。ミュウツーに勝てるポケモン等存在しない!」
 フジを含めた研究者たちが口々に己らの功績を褒め称え合う。ミュウツーのあるゆるポテンシャルをテストし、実験が終わればすぐに冬眠状態に入るミュウツー。
 カツラは、専用の貯水槽の中で眠るミュウツーの姿を見る。親のミュウとはかけ離れていた。
(……これでいいのだ。ポケモンの持つ可能性。その解明は確実に成果が出始めている。ポケモンの謎を解き明かす事ができれば、お前も自由になるだろう。それまで、付き合ってくれ)
 しかし、ミュウツーの成長はある日を境に下り坂に入った。あらゆる能力の数値が下降していき、ミュウツーの姿も日に日にやせ細っていく。
 しかし逆に、貯水槽にいるミュウツーへの実験は熾烈を極めた。
「なんだこの数値は、もっと投薬を増やせ!」
「やめろフジ! これ以上投薬すればミュウツーが死んでしまうぞ! あんなに苦しんでいるのにわからないのか!!」
「何を言っているカツラ! 計器の数値はまだ充分に余裕がある! かまわん! 投薬を増やせ!!」
 そうフジが言った時、貯水槽がバラバラに砕け散った。ミュウツーが雄叫びを上げながらあらゆるエスパー能力を発現させ、壁をずたずたに引き裂いていく。
「!? 鎮静剤を!! 早く!」
 鎮静剤を打たれたミュウツーは、すぐに眠りについた。
 それからミュウツーの力は飛躍的に上がった。しかし、制御が効かない。あらゆる実験器具と拘束具が破壊され、研究員にも負傷者が出る始末。
 フジとカツラは研究者ではなく、いつの間にか暴れる囚人を押さえつける看守になっていた。
「……どうすれば、どうすればいい! あんなポケモン制御できるわけがない! あれが世に出てしまえば、大変なことになる! 我らは……怪物を創りだしてしまった……」
「フジ……」
265:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/05(火)00:21:18.52ID:A2if7Xi90
 そしてその日は、程なく訪れた。
「ミュウツーのサイコキネシス! 止まりません!」
「鎮静剤の投与を増やせ!! ありったけの鎮静剤を……!!」
「もうやってます!! ああ!」
 何重にも付けられたミュウツーの拘束具にひびが広がっていく。極めつけは、研究所の壁に風穴を開けて侵入してきたミュウだった。
 ミュウがサイコキネシスで、ミュウツーの拘束具を破壊していく。
「ミュウがなんでここに!! 別棟で隔離していたはずだ!!」
 カツラは、ようやく悟った。
「……子供を、救いに来たのだろう。俺達はここまでだフジ。全員研究所から避難しろ! サイコキネシスに巻き込まれるぞ! ウインディ!」
 カツラがウインディを出して、近くにいた研究者達を乗せていく。
「やめろカツラ! 俺達は、俺達は……!!」
「見ろ、フジ。私達は、間違っていたのだ……」
 嵐吹き荒れる中、ミュウとミュウツーが互いへ手を伸ばしていた。ミュウツーの瞳には、雫が溢れいてる。
「駆けろ! ウインディ!」
 カツラ達が研究所から脱出したのと、同時に、研究所から天へ光の筋がのび、瓦礫と化した研究所と共に天へのぼっていく。
 光の中では、ミュウとミュウツーが笑顔で手を合わせている。
 その光景を、フジとカツラは様々な感情とともに見上げていた。
 フジは地面へと跪き、くぐもった声で涙を地面に落とす。
「カツラ……俺は……俺は…………!」
「フジ……」
 ミュウとミュウツーの研究は頓挫した。一部の研究員はグレン島でなおもポケモン研究を続けたが、カツラはポケモントレーナーとしての道を歩み、フジは何処かへと姿を消した。
269:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/05(火)23:51:25.14ID:A2if7Xi90
「あの、すいません」
「!?」
 カツラが写真を眺めていた時に、ドアを無くした入り口からひょっこりと顔を出す一人の少年。レッドだった。
「ジムリーダーのカツラさん……ですよね。あのジムの方に頼まれて迎いに来たんですけど……」
「おお、すまんな!」
 カツラは明るくひょうきんな声を出しながら、写真を机に置き直す。
「おや、君は……レッド君かな?」
「え!?」
「他のジムリーダーの面々から噂は聞いておるよ! 随分と熱いポケモントレーナーがいるとな! いかにもわしが炎のジムリーダーカツラ! わざわざ迎えに来てもらってありがとう!」
「いえ。こちらこそ……あれ、その写真は?」
「ん……ああ……古い写真だよ」
 レッドが部屋に入り、机の上の写真に近づいていく。遠目にだが、レッドはその写真の人物に見覚えがある気がした。
 カツラは一瞬、その写真を胸にしまおうかと思ったがやめた。自分が犯した罪を、隠すような気がして。
「……これは、カツラさん? す、すいません!」
「はっはっ! 昔はふさふさだったんだがのう!」
 カツラは気にした様子もなくからりと笑う。しかし、レッドはカツラと肩を組んで笑顔でいる隣の人物の方が気になった。
「あれ、これってまさか……フジ老人? 似てるけど……」
「な!?」
 幾年も出してなかったカツラの驚きの声。カツラはあんぐりと口を空けたあと、レッドへ思わず詰め寄る。
270:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/05(火)23:53:18.22ID:A2if7Xi90
「レ、レッド君!? フジを知っておるのかね!?」
「え! ええ。シオンタウンでお世話になった方です。今はシオンタウンでポケモンの保護活動を行ってて……」
「……!!」
(あの、フジが……、……ポケモンの保護活動……)
「そうか……おっと、すまんな! わしとしたことが取り乱してしまった」
「フジ老人とは、仲がよかったんですね」
 レッドが写真を見ながら言う。
「ああ。共にポケモンの研究に明け暮れていた仲じゃ。そうか、フジも元気にやってるようで何よりじゃ」
「ここの研究所ってことは……カツラさんも、ミュウの研究を?」
「!? レッド君! どこでそれを!?」
「え!? ここの地下に入っていったら、研究資料の一部が残ってて……」
「むむ……そうか、地下か……あそこは人が寄り付かんから、すっかり忘れておったな! うむ。それを見てしまったなら色々と気になるじゃろう。ジム戦の前に少し昔話をしようか」
 よっこいしょと、カツラは瓦礫の上へと座る。その瞳はサングラスに隠れてうかがい知れない。
「かつてフジと私は、共にポケモンの研究をここでしていた。まだオーキド博士が一大発表をする前、ポケモン図鑑のずの字もない時代だ。わしとフジはポケモンが大好きでな。そりゃあもう没頭した!」
 カツラの声は明るい。レッドも貴重な話を聞いている事を自覚して、テンションが高まる。
「研究を続けるある日、わしとフジはとある新種のポケモン、レッド君が見つけた資料にも書かれているミュウを発見した。とてもめずらしい特徴と、神秘的な魅力を持ったポケモンだった……」
 カツラは一旦そこで言葉を止め、レッドへ問う。
「時にレッド君。君はポケモンと接するときに一番気をつけていることはなにかな?」
「気をつけていること……友達になりたいっていう、想いですね。こちらから心を開いて、相手を理解したい。そうだ」
 レッドは気づいたようにモンスターボールを放り、ガラガラを出現させる。
「この子も、元々はフジ老人が保護していた子なんです。親をなくしたショックで塞ぎこんでいて、俺はこの子の力になりたかった。一緒に旅を続けてきた今では心を開いてくれて、大切な相棒になりました」
 レッドがガラガラへ軽く拳を突き出すと、ガラガラも鳴き声を上げて拳を突き合わせて応じる。
(親をなくしたショック……)
 カツラの脳裏に浮かぶ2つの映像。拘束具につつまれたポケモン、そして、親子の再会を見て地面に突っ伏した友人。
271:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/05(火)23:55:07.79ID:A2if7Xi90
「そうか……フジが親をなくしたポケモンを……」
「ええ。フジ老人には、ポケモンと接する人として、大事な事を学びました」
 レッドはガラガラを撫でながら笑顔で言う。
 それ見たカツラの心に、今まで感じたことのない感情が沸き上がっている。
『今更生命への冒涜だとでも抜かす気か?』
(……フジ………………)
「カツラさん?」
「お!? はっはっ! いやすまん! まだまだぼける年齢ではないと思っていたがいやはや……。話の続きだったな、ミュウのこと」
「はい!」
 レッドが目をきらめかせながら頷く。
「ミュウは凄かった! なんとあらゆる技を覚えたのだ! 火をはき水を出し岩も草も出現させる! おまけにメタモンのように変身だってできてしまう!」
「おお……!!」
「あらゆるポケモンの常識を覆したポケモンだった。しかし、強い力と押せばでる新たな知識に……わし達研究員は大事な事を忘れてしまっていた」
「大事なこと……?」
「さて、レッド君、これはクイズとしておこう。わし達がミュウを研究する上で、忘れてしまっていたことはなにか……、解答はジム戦の後に聞こうかの!」
 カツラがウインディに跨がり、「先に行っておるぞー!」と叫びながらジムへと駆けていく。レッドも慌ててピジョットを出して脚に捕まり、カツラとウインディを追いかけていった。
272:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/05(火)23:56:51.59ID:A2if7Xi90
 グレンジム。そこは炎タイプのエキスパートが集うクイズの館。
「しねしねこうせん……? えっと"いいえ"で」
 レッドが恐る恐るドアの電子ロックに表示されたクイズに答える。
 すると、ピンポーンと小気味良い音がなった後、ジムの最奥にあるバトルスペースが姿を表した。
 奥に待つは、炎のジムリーダー。
(さてと!)
 カツラは大きく息を吸い込む。そして、
「うおおーす! 待っていたぞレッド君! 火傷治しの準備はいいかあ!! 熱い戦いにするぞ!」
 カツラの気合のはった宣誓に、レッドも気を引き締め、そして笑顔で応えた。
「はい! 全力で行きます!」
「炎を司るジムリーダー、カツラ!」
「マサラタウンのレッド!」
『バトル開始い!』
「行け! ギャラドス!」
「行け! ギャロップ!」
「バブルこうせん!」 
「ほのおのうず!」
 ギャラドスのバブルこうせんをギャロップがなんとかほのおのうずで防ごうとするが、やはりタイプ相性の差は大きかった。
「むむ! これはまずい! ギャロップ!」
「ヒヒーン!!」
 炎が水をかぶれば蒸気が生まれる。ギャロップは自身の体から溢れる炎をバブルこうせんに放射して、蒸気の目眩ましを作った。
「しまった!」
 レッドは失策を悟る。あたりが蒸気に覆われ一時でも姿を見失えば、ポケモンの中でも随一の脚を持つギャロップを捉えるのは非情に困難。
「ギャロップ、ふみつけ!」
「ギャラ!?」
 ギャロップは蒸気の中バブルこうせんを迂回して駆けて飛び上がり、ギャラドスの頭を正確に踏み抜く。
「ギャラドス、かみつく!」
 ギャラドスがすぐさまギャロップに牙を剥くが、その時にはギャロップは蒸気の中へ消えている。
「今はがまんだ! ギャラドス」
「もう一度だギャロップ! ふみつけ!」
 ギャラドスは長いからだを縮めて急所を覆い、ギャロップのふみつけに耐える。
(ふむ、蒸気が晴れるのを待っているのか。だが、そうはいかない。その前に勝負を決めさせてもらおう!)
「ギャロップ! つのドリル!」
 動かないギャラドスに対し、ギャロップは大技に入る。
(それを待っていたんだ!)
「ギャラドス! がまんを解放しろ!」
「なに!?」
 雄叫びを上げ尻尾をギャロップ目掛けて旋回させるギャラドス。がまんによって蓄積されたパワーは、角を構えて突進体勢に入っていたギャロップを横殴りにして吹き飛ばした。
『ギャロップ! 戦闘不能!』
273:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/05(火)23:58:49.29ID:A2if7Xi90
「これは一本取られた! 戻れギャロップ。行け! キュウコン! あやしいひかり!」
 キュウコンが出始めと共に放ったあやしいひかりはギャラドスに命中し、ギャラドスは敵のいない場所を尻尾で意味なく叩き始める。
「混乱してしまった……!?」
「ここは力押しだキュウコン! はかいこうせん!」
 キュウコンの口から高圧縮されたエネルギー波に、さしものギャラドスも耐えられなかった。
『ギャラドス! 戦闘不能!』
「なんて威力だ……! でも決して俺達は怖気づいたりしない! 行け! ラッタ!」
「ほう……! キュウコンは並大抵の攻撃では潰れないぞ! ラッタでどう戦う!?」
(キュウコンは技の反動で動きが鈍っている。仕留めるなら今!)
「ラッタにはラッタの戦い方がある。行け、いかりのまえば!」
「むお!?」
 ラッタがキュウコンの体のつぼを正確に攻撃する。痛みを感じずにはいれないつぼを強烈な前歯で挟み込み、どんなポケモンの体力も半減させてしまうラッタの特有技。
「くっ! かえんほうしゃ!」
「ラッタ! ひっさつまえば!」
 ラッタは火炎の中を猛進し、キュウコンの体を正確に攻撃して通過する。そして、
「でんこうせっか!」
 即座に反転して背中に一撃を加えた。
『キュウコン! 戦闘不能!』
「見事な連携だ! 一朝一夕のものではないな?」
「ラッタも大事な相棒ですから。よくやったなラッタ、戻れ。そして! 行け! ガラガラ!」
(相棒か……)
 付き合い方が違えば、あの二匹ともそんな関係になれたのだろうか。
「……行くぞレッド君! わしの最後のポケモン! ウインディ!」
274:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/06(水)00:00:06.45ID:A2if7Xi90
 カツラの相棒ウインディ。その速力はギャロップに勝るとも劣らない。
「行くぞ! 突進!」
「ホネこんぼう……はっはやい!?」
 レッドもガラガラも、ウインディの速力に驚いた。即座に眼前に迫ったウインディの突進を、ガラガラはなんとかホネこんぼうでガードする。
「くっ距離をとれ、ガラガラ!」
「甘い! 大文字!」
 距離を取ると今度はウインディの口から極大の炎が噴出する。当たれば体力が満タンだろうとひとたまりもない。
(とった!)
 カツラは確信した。レッドは状況に反応しきれていない。しかし、
「あなをほる!……と、ナイスだガラガラ!」
 
「な、なんと!」
 レッドの技の叫びより数コンマ早く、ガラガラはあなをほるを実行して大文字を避けた。
(決してレッド君が後付で叫んだのではない。レッド君とガラガラの考えがシンクロしていた! まだほんの少年に、こんな事ができるのか……!)
「だがレッド君! ウインディは鼻が利くぞ!」
 ウインディはガラガラが出てきた瞬間に大文字の餌食とする気だ。
「それはどうかな……!」
(ほう……! いい顔をするではないか!)
 ウインディがガラガラを仕留める確率はもう極めて高い。しかし、カツラは決して闘志の衰えないレッドの顔を見て、期待した。
 そして、フィールドの一部の場所の土が盛り上がり、そこから影が飛び上がる!
「大文字!!」
 大文字は飛び出した影を正確に捉えた! が……。
「あれはホネこんぼう!? しまっ……」
 ウインディの顎が突如として上空に跳ね上がり、ウインディがひっくり返ると同時に素手のガラガラがフィールドに着地した。
『ウインディ、戦闘不能! 勝者、挑戦者レッド!』
275:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/06(水)00:02:45.59ID:0yV9Wl0g0
「やったぞ! よくやったな! ガラガラ! おわっ!?」
 ガラガラがレッドに向けて駈け出して飛びつき、レッドはそのまま押し倒される。しかしすぐに聞こえてくるレッドの笑い声。
「お見事だレッド君。ガラガラのあの動きも、偶然ではなさそうだな」
 レッドがガラガラをあやしながら答えた。
「ほのおタイプの技を駆使してくる相手なら、やっぱり地面技は必要になるって考えてたんです。だけどあなをほるだと、潜った後に待ち伏せされやすいから、なんとか注意をひく方法ないかって、ガラガラと一緒に編み出したんです! うまく行って良かった……! はははっ!」
 ガラガラとレッドが共に掴んだ勝利で喜び合う。
 人とポケモンが抱き合い、最高の信頼関係を築いている姿。
 カツラはかつての自分たちを幻視する。
 カツラ、フジ、ミュウ、ミュウツー。もし、自分たちが付き合い方を間違えなかったら……。
(抱き合い、笑い合うことも、できたのかな……。ポケモンと人との絆を、忘れさえしなければ……)
「おっと、ガラガラ!?」
 すると、ガラガラはレッドから離れ、カツラの元へてくてくと歩いて行く。
「むっどうしたのかね?」
 ガラガラは手を差し出す。カツラは驚いた。ポケモンが、互いの健闘をたたえ合って、手を差し伸ばすとは。
「あっ! すいません! ガラガラには相手に敬意を示すようにって教えてたんですけど、教えてた俺が先をこされちゃだめですね。勝負ありがとうございました」
「……ふふ、うむ! 忘れなければ大丈夫さ。こちらこそ素晴らしい戦いをありがとう。レッド君、そして、ガラガラ」
 カツラがガラガラの小さな手を取り握手する。
(このガラガラは元々、フジが……。人は、変われるんじゃな。いやはや、わしも負けてられんな!)
「さあ、レッド君、これぞクリムゾンバッジじゃ。受け取ってくれ」
「はい! ありがとうございます! あっそうだカツラさん、その、すいません、クイズの答えなんですけど、実はどうしてもわからなくて……カツラさんやフジ老人が忘れていたことって……?」
「安心しなさい。レッド君は答えをちゃんと知ってるよ。ここにね」
 カツラはレッドの心臓の位置を拳で軽く叩く。そして、レッドに喝采した。
「さあレッド君、残るジムは一つ、バッジ8つを集めたその先に待つ事はなにかな?」
「……セキエイ高原、ポケモンリーグです!」
「大正解! もう目と鼻の先だ! 行ってらっしゃい! 炎のトレーナー!」
「はい!」
 レッドはまた元気に旅立っていく。
「……さて、古い友人に会ってくるとするかな!」
 カツラもまた、晴れやかな想いを手にして。
282:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/08(金)00:05:35.43ID:0B/OiIYk0
すいません。今日も本編お休みします。
変わりに外伝にもならないネタレス投稿。
以下ナツメの下品ネタなので、本編の雰囲気を失いたくない方はご注意ください。
283:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/08(金)00:06:56.78ID:0B/OiIYk0
レッドがセキチクジムを突破した直後の話。
サファリーゾーン! 超!エキサイティン! なポケモンゲットツアー施設を訪れたナツメとレッド。
その5分前。自分の手持ちのポケモン達と相談するナツメ。
「レッドと二人きり……一気に二人の仲を詰めるなにかいい案はないかしら」
(欲望を開放するのです……)
「ちょなにをするのスリーパーそれさいみんじゅつじゃないやめ」
「はぁはぁ。ありがとうレッド。はぁんふ。私どうしてもポケモンがいない施設って心細くって。すううぅはぁああ」
 ナツメがレッドの腕に抱きついていた。ていうかもうレッドの半身に抱き着いている。
「え、えっと。構いませんよ。俺も一人で回るより二人のほうが……ってナツメさん? 息尋常じゃなく荒いけど大丈夫ですか? 顔も赤いし……」
「大丈夫よ。レッドもバトルで興奮すると息が荒くなるでしょ? それと同じ(はあレッドの匂い最高イイ匂いレッドもちょっと顔赤くなっててかわいいでもバトルになるととても凛々しくてああ腕だけじゃ我慢できないこのまま茂みに押し倒してレッドに大人の階段をのぼ)」
「あっ! 野生のケンタロスおわ!?」
「きゃあ! あ!? ごめんなさいレッド。驚いた拍子にあなたに抱きついてしまって。あなたと私って抱きあうとすっぽり合わさってちょうどいいわね」
「すっぽり……? あっ野生のラッキーはぶっ!?」
「きゃあ! あっ!? ごめんなさいレッド。驚いた拍子に押し倒してしまって。おまけにあなたの首に私の唇が着いてしまったわ。怪我はない?」
「え、ええ。大丈夫ってあれはミニリュうううう!?」
「ああっ!? ごめんなさいレッド。驚いた拍子にあなたのズボンとパンツを下ろして股間に顔をうずめてしまったわ。お詫びに私が今履いてるパンツをレッドに」
「いっいいです! 事故だってわかってますから! あ、時間切れ……」
「ふふっ。それじゃあ再チャレンジしましょ。レッドがここのポケモン制覇するまで私が代金払うから。あ、レッドいいこと考えたわ。お互い裸で抱き合いながらサファリーゾーンを回るの。そしたらお互い身軽になる上後ろをカバーできてポケモンを見逃さずに」
「あなたさっきその子のスボン下ろしてたわよね? ちょっと署まで来てくれる?」 
 人が逮捕される瞬間と容疑者を弁護する経験を一度に体験したレッドだった。
(レッドの……あそこ……)
 正気に戻ってからも変に意識してしまい、どんどんレッドへの想いが斜め上に向かうナツメだった。
288:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/08(金)22:20:29.36ID:0B/OiIYk0
 マサラタウン。そこは草原と吹き抜ける風、小川のせせらぎ、小型ポケモン達の可愛らしい声が響くのどかな場所。
 
(これが、俺の町)
 
 レッドは久々に見る光景が妙に美しく見えた。見慣れたはずの景色。生まれいで育った大地。
 グリーンと共に駆けまわった場所。
 レッドは町に入り、近くに見える自宅とポケモン研究所を見、その間の道と広場を見た。
 今よりも頭一つ小さかったレッドとグリーン、二人が走っていく姿を幻視する。
 グリーンが少し先を走り、レッドは息を切らせながら必死に追いすがる。
 憧れた。敗北した。何度も泣いた。何度もあきらめかけ、そしてふてくされた。
 しかし、その背中を見失ったことはない。
 レッドは自宅へと歩き、そのドアノブを取る。
 母がいるだろう。色々と話したいことがある。旅で出会った人たち。時には美しき、時にはたくましいポケモン達。
 共に駆けた自分と一心同体の仲間達。
 まだ旅が終わったわけでは決してないが、それでも逸る気持ちでこの言葉を発したい。
「……ただいま!」
 驚きと喜びの入り混じった声で、レッドは出迎えられた。
289:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/08(金)22:21:35.28ID:0B/OiIYk0
今日はこれだけです……。明日から本格的に更新します。
291:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/09(土)23:16:37.06ID:ixXhzS2V0
 ニビシティ。そこには固い意思を持ち合わせたジムリーダーがいる。
 ニビジム内の岩に囲まれたバトルスペースの中で、今日もタケシの熱烈な教導が続く。
「そうだ!! ポケモンの行動の継ぎ目を見逃すな! 命令をこなしきったらすぐに次の判断をくだせ! 矢継ぎ早に命令しても混乱させるだけだぞ!」
「は……はい!」
 タケシがイワークを操りながら、ジム所属の若きたんパンこぞうとイシツブテに声を飛ばす。
 イシツブテがイワークのたいあたりの猛攻を耐える。イワークは息切れしたのか、動きが止まった。
「今だ! イシツブテ! がまんを開放しろ!」
 イシツブテの渾身の拳がイワークのボディにヒビを入れる。
「良い攻撃だ! だが俺もまだまだ負けないぞ!」
「はい!!」
「イワーク! いわおとし!」
 レッドとの戦い以来、ジム所属を希望するトレーナーが殺到し、タケシは忙しい毎日を送っている。しかしその日々の中に、かつてタケシが持っていた戦うことへの疑問はない。
(俺はポケモン達が好きだ。ポケモンバトルはポケモンと息を合わせ困難に立ち向かい、素晴らしい勝利を分かち合える舞台。レッド君、君は俺に気づかせてくれた)
 タケシはカントー地方で誰よりも、岩タイプのポケモンと息を合わせられる。
(その素晴らしさを、俺は多くの人に伝えたい。強さを望むポケモントレーナーの手助けをしたい。その先にこそ、俺と俺の相棒達が望む強さがあると、今なら信じることができる!)
「さあ、勝つぞ! イワーク!」
「グオオオオオ!!」
 どんな相手でも全力を尽くし、真の強さへの道を教導するタケシ。ニビジムは今日も、固い闘志の声が響き渡っている。
292:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/09(土)23:18:35.70ID:ixXhzS2V0
 ハナダジム。ポケモン達が自在に泳げるバトルフィールドのプールに、カスミの怒号が飛ぶ。
「サクラ姉ぇ!! 腰が引けてる! お姉ちゃんのヒトデマンは臆病なんだから、お姉ちゃんの腰が引けてたら余計に逃げまわっちゃうでしょ!」
「そ、そう言われてもお……」
 カスミのタッツーが水鉄砲で猛攻をしかけ、カスミの姉のサクラが繰り出したヒトデマンがフィールドを逃げまわっている。
「私が帰ってきたからサボれるなんて思ったら大間違いよ! 私が家を飛び出す前はあんなにまじめだったくせに……!」
「だ、だって……」
 ジムリーダー姉妹の次女アヤメと三女ボタンも戦々恐々で見守っている。
「だってもなにもない! サクラ姉が終わったらアヤメ姉とボタン姉だがんね! ほらサクラ姉、ヒトデマンをよく見て!」
「よ、よく見てって……もう私のヒトデマンに戦う意志は……」
「ち・が・う! ヒトデマンは臆病だけど戦う意志を失ってなんかないわ! 直接的な接触を避ける分、普通のヒトデマンよりも素早い動きができる。お姉ちゃんがそれを活かしてあげるの!」
「……あ! なるほどね……今よヒトデマン! スピードスター!」
 ヒトデマンがその速力を生かし、避けながらスピードスターを放出しタッツーの猛攻を止める。
「やった……!」
「ふふ、やればできるじゃない! ほら、ジムリーダーは私達四姉妹なんだから!」
 カスミの顔が笑顔に変わる。カスミが飛び出す時にトレーナーとしての道を説き、レッドとの戦いも見守った三女のボタンがカスミを見て誇らしげに言う。
「ふふ、カスミもジムリーダーとしての貫禄がでてきたわね」
「ボタン、昨日カスミに6タテされてたわよね」
「い、言わないでよ……アヤメ姉も一緒じゃない……」
「……うん。でもせめて、カスミの姉って胸張って言えるぐらいの実力は身につけたいわね」
「……ええ!」
 ハナダの4姉妹、それぞれの実力は違えど、4人の揺らいでいた目標が重なってきている。
(レッド、あなたはきっと凄いトレーナーになる。でも私だって、すぐにあんたに見劣りしないトレーナーになってみせるから!)
「ひるまないでタッツー! あなたのいじっぱりな所、見せてあげなさい!」
「タッツゥ!」
 カスミの笑顔の激励にタッツーが応える。
 ハナダジムの末妹が、女の子の魅力とトレーナーとしての素晴らしさを兼ね備えた少女として有名になるのは、そう時間がかからないだろう。
293:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/09(土)23:21:30.61ID:ixXhzS2V0
 クチバシティのマチス。クチバシティジムリーダーにして、ポケモンだいすきクラブ会員。そして、定期的に行われる『ポケモンとの暮らし』無料セミナーのメイン講師。
「マチスおじさん! ピカチュウってどんな遊びをしてあげればいいのかな?」
 ジムで行われるセミナーには老若男女問わない多くの人たちが、パートナーのポケモン達を出して情報交換をしている。
 そんな中でピカチュウを従えた男の子が、ライチュウを従えたマチスに質問した。
「ピカチュウは電気を使った遊びがダーイ好きネ! 電気タイプのポケモン用の遊び道具があるから、ピカチュウが気に入るのを選んであげるネ!」
「わーありがとー!」
 マチスがポーチから様々なグッズを取り出して、男の子に使い方を伝授していく。ピカチュウが気にいるものが見つかったのか、男の子はマチスに礼を言ってピカチュウと駆けていった。
 すると入れ替わりで、今度はサンドを連れた老女がマチスに話しかけてきた。
「マチスさん、実は私の家に先日強盗が入ってね……」
「オーノー!? そんな!? ミー知らなかったね! 怪我はなかったノ!?」
「ええ、私が襲われそうになったところを、うちのサンドが飛び出して見事強盗を撃退してくれてね。マチスさんがセミナーでサンドを鍛えてくれたおかげだよ。本当にありがとう……!」
 老女がマチスに深々と頭を下げる。
「オー!! 頭を上げて! ミーが少しでも役に立てたのなら、とってもハッピーネ! サンドとお婆さんの間に強い絆があったからこそネ!」
 マチスがその外見に似合わず、やんややんやと笑顔でサンドを称える。
 そんなマチスにまた、ポケモンだいすきクラブの会長が声をかけた。
「マチスさん……。いつもありがとう。皆大切なパートナーを守るだけでなく、さらに強い絆を繋ぐことができた。あなたの協力のおかげじゃ」
「オー! ミーもポケモンだいすきクラブに入れてもらって嬉しかったネ! ポケモンの事いっぱい話せる仲間ができてハッピーネ! でもそれは……」
 マチスが、窓に切り取られた海の景色を見る。
「ミーと会長サン達を繋げてくれた、ボーイの事も忘れちゃいけないヨ」
「……ああ。もちろんじゃ」
 マチスの脳裏に浮かぶ、マチスとレッドの戦い。大歓声の中、フシギソウの勝利とともに両の拳を天に突き上げたレッドの姿。
「ユーならきっと、ベストポケモントレーナーになれるね……」
 マチスの呟きの相手が誰に向けられたものなのか、会長にもすぐわかった。
(レッド君、君がポケモントレーナーとして、海の向こうまで聞こえるような活躍ができるよう、わしも応援しているぞ)
 会長の想い。マチスの期待。レッドの背を押す目に見えない力が届くのは、もうすぐだった。
294:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/09(土)23:24:52.57ID:ixXhzS2V0
「挑戦状?」
 ナツメはヤマブキジムの最奥にて、ジム所属のトレーナーの知らせに疑問の声を上げた。
「ええ、隣の格闘道場からです。トレーナー達で各自ポケモンを持ち寄り、ポケモンバトルの真剣勝負をしようと……」
「……はあ。またヤマブキジムの称号をかけてとでも言う気かしら?」
 ナツメはため息を吐く。今日のヤマブキジムと隣の格闘道場はかつてヤマブキジムの座を争った(実際には格闘道場にジム認定の話は来てないが、妙に対抗意識を燃やした)間柄で、事あるごとにポケモンバトルを行っては、ナツメ達がエスパータイプのポケモンで追い返すのが常だった。
 それもシルフカンパニーの件で一時的に協力関係を結び、事件が収まってからは静かなものだったのだが……。
「はあ、わかったわ。適当に人を集めて。場所はまた向こうでしょ? 今から行くから準備してと伝えて」
「はい!」
(もう、どうせ手紙を送ってくるならレッドがくれればいいのに。はあ……会いたいな……)
 ナツメが再びため息を吐きながら、手持ちのポケモン達の状態をチェックする。
 ほどなくトレーナーが集まり、皆隣の格闘道場へ移動した。ヤマブキジムで行わないのは、戦いで傷つくバトルスペースの補修費も馬鹿にならないからである。ジム戦でない限り、挑戦を突きつけた側が戦いの場所を用意していなければ、まず相手にしない。
 ナツメ達が入ると、格闘道場の空手王5人が正座して待ち構えていた。
「ナツメ殿。挑戦を受けてくれたこと感謝する!」
「さっさと始めましょ。誰から行くの?」
「待ってくれ。我らが空手王五人衆、気合の音頭を入れるのを待って欲しい」
 空手王達が一斉に立ち上がり、それぞれ空手の型を取りながら叫ぶ。
「せいっ! 我ら空手王! せいっ! 恥辱に塗れた敗北と嘘を拭うため! せいっ! 何者にも負けない強さを身につけるため! せいっ! 街を守り救ってくれた少年に心からの感謝と敬意を持って。せいっ!!」
「……!」
 ナツメも驚く。空手王達が言う少年が誰のことがすぐにわかった。
「せいやあ!! 我ら全員、全身全霊を持って、この勝負に勝つ!! 以上! 静聴、感謝する!」
「……ふふ。随分な気合ね、だけど」
 ナツメとヤマブキジムのジムトレーナー達の瞳にも、戦意が灯った。あの日敗北し、そして一人の少年に心を奮い立たされ、再起を誓ったのはこちらも同じ。
「ヤマブキジムのエスパーポケモン。気と心を兼ね備えた念力の妙技、見せてあげる」
 ナツメが微笑み、モンスターボールを構える。
「行くぞ! 格闘道場師範、空手大王のノブヒコ!」
「エスパーを司るヤマブキジムリーダー、ナツメ」
『バトル開始!!』
「行け! エビワラー!」
「行きなさいフーディン!」
 ナツメは黒い長髪をなびかせながら、フーディンに手をかざす。
 負ける気がしない。別に相手を侮っているわけではない。自分の魂に誓った想いがあるから。
(悪いけど、負ける訳にはいかないの。私がレッドともう一度戦う、その時までは!)
295:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/09(土)23:53:08.80ID:ixXhzS2V0
 サイクリングロード。その一角で、バイクに跨がったパンクルックの男達が、皆愕然として頭を垂れていた。
「嘘だろ……俺達サイクリングロード暴走団が全滅……!?、たった一人のトレーナーに……!」
 相対していたのは、元セキチクジムリーダー、忍者の末裔キョウ。時代錯誤の忍者ルック。
「ファファファファ! お主らポケモンバトルの筋は悪くない。成る程、戦ってみなければ分からない事も確かにある」
「くそっ……。嫌味はよせ! 俺達にもう戦う力はない。ジュンサーに突き出すなり好きにしやがれ!」
「ファファ。もちろんお主らが犯した罪についてはジュンサー達に任せるとする。だがその先の道については、一つ助言をしておこう」
「助言だと……?」
 スキンヘッドの男がキョウに問う。
「ポケモンとの絆、貴様らが最初にポケモンと出会った時のことを思い出せ。またポケモンを持った時既に悪の道に染まっていたというのなら、今一度ポケモンと向き合い生き方を問うがいい。各地のジムリーダー達はどんなトレーナーが相手でも戸を開けている!」
「ポケモンとの、絆……」
「ファファファファ! それでも納得できないというのなら、このキョウがいつでも相手をしよう! 拙者は忍びはするが逃げも隠れもしない! ポケモントレーナーのキョウだ!」
 そう言ってキョウは橋から飛び降り、ゴルバットに肩を掴まれて飛んでいった。
 残されたサイクリングロード暴走団のメンバーが口々に隣の仲間に相談する。
「おい、どうするよ」「俺はいやだぜ、ジュンサーに今更捕まるなんて!」「だけど、このままじゃあまたキョウに……」
「俺は行くぜ」
 スキンヘッドの男が一人バイクのエンジンを入れる。別の仲間が焦った声で話しかける
「おい! おまえ本気か!?」
 スキンヘッドの男は振り返らずに言った。
「ああ。俺は二度も負けちまった。俺と俺のオコリザルはこんなタマじゃねえ。強くなるために、今まで腐っていた俺を、まずはマイナスからゼロに戻すためにな」
『俺はマサラタウンのレッド。ポケモントレーナーです ポケモン勝負なら、いつでも受け付けます。……いい戦いでした』
『このキョウがいつでも相手をしよう! 拙者は忍びはするが逃げも隠れもしない! ポケモントレーナーのキョウだ!』
「ポケモントレーナー……そう胸を張って、名乗れるようになるためによ」
 スキンヘッドの男はその言葉を最後に、サイクリングロードを南へ疾走していった。サイクリングロード暴走団のメンバーも、様々な表情をしながらまた一人、また一人とバイクのエンジンを入れてその場を後にする。
 しばらくして、サイクリングロードにガラの悪い男はちょくちょくいるものの、ワイヤーを使った事故はめっきりなくなった。
 さらに時がたったのち、償いを終えた男たちがこぞってセキチクジムに挑戦し、アンズが突如として訪れた強面の集団に四苦八苦するのだが、大した話ではない。ポケモントレーナーとして、よくある日常だった。
296:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/10(日)00:34:56.75ID:aDI4/WiM0
 シオンタウン。その町中の公園で、ニドリーノとコダックを放って町の子どもたちの遊び相手をさせている老人がいる。
「あまり遠くへいっちゃいかんよ」
「はーい!」
 よく晴れた日だった。老人は公園でかけ回る子供とポケモン達を眺めながら、木陰に覆われたベンチへと腰掛ける。
 
 ニドリーノとコダック。かつて飼い主に傷つけられ、そして捨てられたポケモン。今では笑顔を取り戻し、外に出て元気に遊べるまでに回復した。
 かつて人によって母を殺されたカラカラも、今はきっと元気な日々を送っているだろう。
 しかし、フジ老人には決して記憶から消えない暗黒がある。
(ミュウ……ミュウツーよ…………)
 ただ、知りたかった。最初は純粋な欲求だったはずが、ポケモンを傷つけていることにすら気づかなかった。
 フジ老人はグレン島を去ってから、オーキド博士とタマムシ大学に働きかけ、ポケモンに使う薬の臨床試験についてポケモンの安全性を重視した決まりを全国に徹底させ、その後は傷ついたポケモン達を保護するポケモンハウスを設立した。
 それから四半世紀。
 多くのポケモンの心を回復させ、そして新たな旅立ちを見送ってきた今でも、胸に残る罪は決して消えてはくれない。
(もう、会うこともないじゃろう。だが、もう一度会ってあやまりたい。わしの自己満足だとしても、わしが死ぬ前にもう一度……)
「隣、よろしいですかな」
「ええ、どうぞ」
 フジ老人の隣に初老の男性が座る。フジ老人と違い腰はまだ曲がっていないようだった。髭がなくきりりとした眼、側頭部に残った髪の白髪が、まだまだ現役と暗に言っているようだった。
「よい笑顔をしたポケモンたちですな。あれはあなたの?」
「ええ。あの子たちの笑顔に、わしも助けられていますよ」
「なるほど……。全く、いい年の取り方をしているじゃないか。連絡ぐらいよこさんか」
「え……?」
 フジ老人の隣に座っていた男性が、丸縁のサングラスを掛け、白い立派な付け髭をし、側頭部に髪が生えていたカツラをとる。つるりとした頭が光っていた。
「カ……カツラ……!?」
「まったく何年ぶりか忘れたぞ! フジ!」
「カ……カツラ……。なんで……」
「グレンジムでガラガラを伴ったトレーナーに出会ってな。話を聞けば、そのガラガラは親を殺された所をとある老人に保護されていたと言うではないか! ポケモンを大切に思う老人がどんな人か、会いに来たくなってな!」
「……カツラ……わしは…………ただ……」
 フジ老人は眼を手で覆い、声を震わせた。カツラは友人に語りかける。
「罪滅ぼしなんて言うまいぞ。お前は昔からポケモンが好きすぎるポケモン馬鹿ということは知っている! それに、あの日の罪はあの場にいた全員が背負い込んだ物だ。一人で全部背負うでない!」
「カツラ……」
「話したいことがたくさんあるぞ。時計の針は元に戻らんが、それでも前に進んだフジの話を是非聞きたい。もちろん、こちらのことも話したい。どうかな」
 カツラは手を差し出した。その手は、どんな時でも共にポケモンの未知を求めた、親友の手。
「ああ……そうか……。そうだな……。そうするとしようか……!」
 フジ老人は涙を拭うのを忘れ、カツラと握手する。一人の少年がガラガラを救い、また一人の少年がガラガラを伴って旅立ち、そしてここに過去の絆を導いてくれた、今一度繋げてくれた。その全てに感謝しながら。
304:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/12(火)22:40:51.29ID:29CFa3JL0
 マサラタウンの草原はひたすらにのどかだった。天気は快晴、大型のポケモンがおらず、騒がしい動物の鳴き声もない。
 レッドはかつてこの場所が好きだった。静かで安全で、グリーンに負けた悔しさを冷めさせるにはもってこいの場所。
 今もこの場所が好きだ。理由は変わった。あの日、エリカと出会えた場所だから。
 レッドはフシギバナを出して、その頬に手を当てて語りかける。
「覚えてるかフシギバナ。ここで、初めてお前にポケモンフードあげたな。あの時は俺がしゃがんでたのに、今じゃ俺がお前を見上げてる」
 微笑みと共にフシギバナの頬を撫でると、フシギバナは気持ちよさそうに声を漏らした。
 レッドは再び腰のモンスターボールを放っていく。現れたのはピジョット、ラッタ、バタフリー、ガラガラ。
「ギャラドスはごめんな。ここに小川があったらよかったんだけど……。皆、遊んでおいで」
 レッドがそう言うと、ピジョットとラッタは嬉しそうな鳴き声を上げて久しぶりの故郷に飛び出していく。
 バタフリーはフシギバナの花の蜜が気になるのか、レッドとフシギバナの近くをゆっくり旋回していく。
 ガラガラは適当にホネこんぼうをいじったりブーメランにして遊んだあと、飽きてしまったのかフシギバナの体を背もたれにして座り込み、寝息をたててしまった。
 レッドはそれを見て静かに笑ったあと、ガラガラの隣に座り、同じようにフシギバナを背もたれにする。
 フシギバナの大きな葉っぱと花が日陰になって以外と涼しい。
 今までカントー地方を全力で駆けて来た。ここまでのんびりするのは何時ぶりだろうか。
(少し、寝てしまおうか)
 そう思った時にはレッドはもう瞼を閉じている。耳を澄ますと草が風で擦れる音、ガラガラとフシギバナの静かな呼吸。遠くでポッポ達の羽ばたきと鳴き声が聞こえる。
 夢を見た。淡い桃色と黄色が混ざった花畑の中、遠くに誰かの後ろ姿。ボブカットの黒髪に和服姿の女性。名前を呼びたい。
 花の香りがした。レッドはまどろみのまま目を開ける。目の前に和傘を差した桃色の袴姿、その女性の微笑む口元までが見える。着物に散りばめられた白い牡丹の意匠がはっきりとわかる距離。
 瞼を完全に開くと、一瞬の驚きと、ゆっくりと広がる喜び。
「こんなところで眠っていると、風邪を引いてしまいますよ?」
 どうしてこんなところに? とは聞かない。
 
「会いたかった、夢みたいだ」
312:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/18(月)23:17:35.72ID:DEs+5Sot0
 レッドがエリカを見上げて微笑む。
「一緒に隣に座らない? エリカさん」
 するとエリカは苦笑して、
「せっかくですけど、服が汚れてしまいます」
 やんわりと断った。レッドも「しまった」と言いながら苦笑する。しかし、薄目を空けたフシギバナが助け舟を出す。
 フシギバナの背中の茂みから無数の葉っぱが放出され、レッドの横に降り積もっていく。ほどなくちょうど二人分座れる広さの葉っぱのベンチが出来上がる。
 レッドが立ち上がってそのベンチをぽんぽんと叩いて具合を確かめ、今度は無言で笑みを浮かべながらエリカを手招きする。
「ふふ。では……」
 エリカもつられて微笑んで了承した。傘をたたみ、レッドの手を取って二人並び座る。手を繋いだままレッドはエリカに顔を向けた。
 互いの瞳の色がはっきりとわかる。レッドは言葉を紡ぎ出す。
「ちょうどエリカさんに会いたかったんだ。来てくれて本当に嬉しい」
「ええ。私も……。なぜ来たかは、聞いてくれないんですか?」
「ええと、オーキド博士になにか? でも、俺に会いに来てくれたなら、すごく嬉しいな」
 二人の距離が、少しずつ縮まる。
「あなたに会いに、ここまで来ちゃいました。手紙の状況から、そろそろかなって」
 レッドの頬がわかりやすく紅潮する。エリカはそんなレッドの反応を楽しんでるようだった。
 しばらく雑談した。ポケモンのこと、手紙に書けなかった旅の細やかな事。タマムシシティとジム、エリカの近況。
 しばらくして言葉が止まった。レッドが、なにか言いたそうだった。エリカも敏感にそれを感じて、レッドが言葉を紡ぎだすのを待つ。
「……今まで色んな事があって、俺自身強くなれたかどうかは、正直分からない。でもあの時、この場所から、ちゃんと自分が進みたい道を進めてる。皆が助けてくれたから」
「……」
 エリカは黙って聞いてくれている。レッド自身、言葉の整理がついていない。だけど、エリカに伝えたい想いがあるのは確かだった。
(うまく、言えるだろうか)
313:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/18(月)23:20:40.40ID:DEs+5Sot0
「バッジを7つ手にして、あとひとつでポケモンリーグに行ける。なんでここまで来れたんだろうって考えると、どうもリーグ優勝が夢だからだとか、そういうことじゃ、ない気がする」
(俺が頑張れた理由……)
「目の前の一つ一つのことに、全力になれたから。フシギバナ達と一緒に一生懸命になれたから、今の自分がいる。仲間と一緒に一つの事に全力になる、その大切さと素晴らしさを、エリカさんが気づかせてくれたから……」
「……そこまで言ってもらえて、光栄の極みです。でも、レッドさん自身の頑張りが一番大きいですよ。だからここにいるポケモン達も皆、あなたが大好きなんです」
 言葉を繋げて誤魔化す事で、エリカはレッドへ自身の好意を発した。エリカは土壇場ではっきりと言えなかった自分を少しだけ嫌悪する。
「それでも、ありがとう。エリカさんにあの日出会えて、本当によかった」
 心よりの感謝からくるレッドの微笑みを、エリカは至近距離で受けた。
(あっ……)
 エリカの心が高鳴る。今まで生きてきた中で、ここまで心が繋がった思える人、一緒にいたいと思う人、手をつなぎ、言葉を交わし、微笑み合ってドキドキする異性なんて、レッド以外、いない。
「俺はあの日を忘れない。これからどんな生き方をしようとも、あの日の暖かい想いを胸に生きていきます。そしてその未来には、ずっと一緒にいたい人がいる」
 エリカの頬にレッドの手が添えられる。エリカは一瞬戸惑ったが、その意味を悟ると体中に嬉しさがほとばしり、薄く口を開けてレッドへ言葉を発しようとする。
「好きです。エリカさん」
 エリカの返答を待たず、レッドの顔がエリカへ近づく。エリカは驚きと喜びの中、目を閉じてレッドに身を任せた。
 レッドがエリカを抱き寄せ、エリカもまた、レッドの服を掴んで自身へ心持ちよせる。
 互いの唇の感触をゆっくりと確かなものにしながら、二人そよ風の中、幸福だけに酔いしれた。
318:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/19(火)22:41:43.80ID:8o6lC1eK0
 レッドとエリカ、二人手をつなぎながらレッドの家へと戻るとレッドの母親が二人を茶化す。
 エリカは少しいたたまれない気分になりながらも、レッドが手を離さず嬉しげな表情を向けてくるがためにまんざらでもなくなり、結局レッドの自宅でご飯を共にした。
「あら、手紙よレッド」
 と、食事を終えたところにレッドの母が一枚の手紙を手渡した。見ると宛先人不明、これといった装飾もない。
 手紙にはこう書いてあった。
『あの時の決着をつけよう。トキワジムで待つ』
「……」
「レッドさん?」
 レッドが手紙を見ながら固まっていると、エリカが不思議そうにレッドの顔を覗き込む。
 レッドは顔を上げた。
「ねえエリカさん。トキワジムのジムリーダーってどんな人なの?」
「トキワジム、実は私も実態をよく知らないのです。ジムリーダーの会合でも欠席で、なおかつジムリーダー代理の人間が多い所。最近までムサシとコジロウというお二方が代理をされていたそうで、本当のジムリーダーを知っている人がはたしてどれだけいるか……」
「そう……。ちなみに、ジムのタイプは?」
「地面、ですね」
 その言葉を聞いてレッドの中で一つの確信が生まれる。
(……なんで、納得してるんだろ)
 
 レッド自身不思議な感覚だった。崩しきれなかった巨悪、その体現者がエリカ達と同じジムリーダーという肩書を背負って自分を待ち構えている。
319:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/19(火)22:43:37.78ID:8o6lC1eK0
「なにか、心配事でも?」
 笑顔をなくし引き締まった顔をしたレッドを見かねて、エリカが至近距離でレッドの瞳を覗き込む。心底心配しているようだった。
「……大丈夫、ありがとう」
 レッドはエリカを心配させまいと微笑みで返し、エリカの左の頬を手のひらで包む。
「無理をなさらないでくださいね……本当に……」
 自身の頬に添えられたレッドの手の上に自分の手を重ねながら、柔らかな笑みを浮かべるエリカ。お互いに甘い雰囲気が流れ、見かねたレッドの母が一つ咳払いして二人をびくりとさせた。
 数刻後にはレッドは母親に出立を告げ、エリカもマサラタウンの端まで見送りにきた。 
「お気をつけて……と、なんだか見送ってばかりですね」
「幸運に思うよ。好きな人に笑顔で見送ってもらえるんだから」
 レッドはこと好意を告げることに関して羞恥を知らないらしい。エリカもレッドが冗談やこちらの反応を面白がるために言っていないことがわかるから、余計に嬉しさやら恥ずかしさやらで顔を俯かせてしまう。
 エリカの顔は赤い。口が嬉しさで妙に歪んでしまうのをなんとか耐える。
 表情と気持ちを整えると、エリカはレッドに真摯な面持ちで声かけた。
「先に行って待っていますね。そう日を置かずあなたが来るって、信じていますから」
「はい……。行ってきます」
 レッドは帽子を脱いで一礼した。そして振り返らずにトキワシティへの歩みを進めていく。
 二人想いが通じあった仲だからこそ、今はこれでよかった。エリカはレッドを信じている。
 レッドは自分が進む道を見失っていない。
 カントージムバッチ最後の難関がこの先で待っている。
335:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/23(土)13:11:10.35ID:e8JXTbi30
(グリーンと戦った場所)
 かつてレッドとポッポが初めてグリーンに勝利したトキワシティの外れ。レッドがカントー地方を一回りして来ても、快晴のこの景観は少しも変わってはいない。
 マサラもそうだった。レッドは自分がエリカと出会った日から劇的に変わる事ができたと己を誇りに思っていたが、ふと変わっていない故郷の景色を見ると、また違った疑念が心の奥底から沸き上がってくる。
(そういえば、俺の中で変わっていないものってあるのかな)
 仲間と助け合い、一つの事に一生懸命になることは素晴らしいことだ。しかし、レッドがそのことを知ったのはポケモンを手にしてからだ。なぜ自分はポケモンを手にする前から、グリーンに勝ちたいと頑張ったのだろう。
 強さとはなにか。今レッドが問われたら、一緒に旅をしてきたポケモン達と様々な熱い戦いを繰り広げたトレーナー達が頭に浮かぶ。じゃあ、フシギダネとエリカに出会う前のレッドだったら?
『よう! 泣き虫レッド!』
 レッドはふと振り返った。遠くにトキワシティ、そしてトキワジムが見える。
(俺はこの旅でずっと、皆に助けられてきた。俺一人じゃ絶対に、ここまで辿りつけなかっただろう)
 レッドはトキワジムへ向かう。トキワジムに電気は点いておらず、人の気配もなさそう。しかし構わずに向かう。
(グリーンもそうなのだろうか。そしてこの先に待つあの人は……)
 レッドがトキワジムの扉を開ける。ジムでは恒例の挑戦者を迎える受付の元気な声は聞こえてこない。
 ジム内は天窓が多く、日が差し込んで以外に明るい。
 その陽射を見上げるように、一人の男がバトルスペースに佇んでいた。
336:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/23(土)13:33:16.90ID:e8JXTbi30
 レッドと男、お互いに無言。レッドはバトルスペースに歩き出すが、男、サカキはレッドを気にした様子もなく天窓を見上げている。
「ロケット団の由来はな」
 サカキはレッドを見ずに、突如語りだす。顔は感情の起伏が見えず、声色も平坦だった。
「"RaidOntheCity.KnockoutEvilTusks."。町を襲いつくせ、撃ちのめせ、悪の牙たちよ。故に"ROCKET"。随分と好き放題やらせてもらったよ」
「あんたはこれからも、ロケット団の活動を続けるのか?」
 レッドの語気はそれほど強くなかった。今のサカキの纏う闘気が、今まで戦ってきたジムリーダー達に似ている。
「……金も地位も名誉もいらない。自らのポケモントレーナーとしての力、カリスマ、知力、全てをもって構築した、正義も法も縛ることができない悪の自由。君には理解できないだろうがね」
 サカキは目線を落とし、レッドの対面に位置するバトルスペースへと歩いて行きながら言葉と続ける。
「矮小な正義などさえずる羽虫でしかない。ジムリーダーやジュンサーが束になろうが、自身のポケモンたちの力をもってすれば些細な問題にもなりはしない」
 
 サカキはいついかなる時でもそう確信していたし、事実そうだった。タマムシ、ヤマブキで捕らえられたロケット団員も一兵卒の一部でしかない。
 サカキがバトルスペースに着くと、今度は笑みを浮かべながら大きく口を開けて叫んだ。
「痛快だ! 正義と夢を謳った扇動者が消えていく! 力があればどんな悪意でもまかり通る! 私の様な悪の親玉がジムリーダーに就いているように、君が思っているほど世界は正道を歩んではいない」
 レッドは聞いているだけ。しかし決してひるんではいない。
 サカキの脳裏に、シルフカンパニーでポケモンを庇ったレッド、そして強大なる闘気を纏ってサカキに対峙したレッドとそのポケモン達が浮かぶ。
「ポケモントレーナーレッドの正道は、私の邪道に真っ向から対峙している。……邪を突き進むものとして、君を真正面から叩き潰す。必ずな」
「その考えが既に正道に半歩足を踏み入れていることに、あんたは気づいているんじゃないか?」
 レッドのその言葉にサカキは目を見開く。しかし、ふっと笑みを零すといつもの余裕たっぷりの貫禄を取り戻す。
337:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/23(土)13:59:27.70ID:e8JXTbi30
「ならばそのまま引き込めるか? ポケモントレーナー!」
 レッドが初めて笑ってサカキに対峙した。悪の巨人、レッドにとって大切な人を傷つけた相手。しかし、この胸の高鳴りだけはどうしようもない。
 ポケモントレーナーとしての高鳴りだけは。
「あんたの今の肩書を考えれば、その必要はない。トキワジムリーダー!」
 互いにモンスターボールを構える。
「大地を司どるジムリーダー、サカキ」
「マサラタウンのレッド!」
 バトル開始。
「行け!! ギャラドス!!」
「行け、ダグトリオ!」
 レッドの闘志にのったギャラドスの咆哮。対してサカキの貫禄を引くダグトリオ。
「ギャラドス! バブルこうせん!」
「ダグトリオ、あなをほる」
 当たれば一撃。しかしダグトリオはすぐさま地中に潜ってバブルこうせんをかわす。
(穴から出てきた所を狙えば……!)
 ダグトリオが地中から顔を出す瞬間を狙うため、ギャラドスは口内に泡をためながら尻尾を丸める。レッドから来る指示、バブルこうせんとたたきつけるどちらでもすぐに反応できるよう攻撃の体勢を整えている。
「ポケモンがトレーナーが繰り出す指示を予測しているとは。それは見事。だが、足りない!」
 サカキが手を掲げる。
「じしん!」
「うわ!?」
 ダグトリオが起こした地震にジムが揺れる。レッドは少し体勢くずしたが、元々少し空中に浮いているギャラドスには効果が無い。
(サカキは何をする気だ……あ!?)
 レッドは気づいた。ダグトリオが起こした地震によってバトルスペースの地面割れ、所々大きく隆起している。体の小さいダグトリオは地面に現れても容易に姿を隠すことができるだろう。
「今だダグトリオ、すなかけ!」
「!?」
 地面が隆起してフィールドの岩と化した場所、その物陰からギャラドスの目に砂が飛ぶ。
338:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/23(土)14:13:05.85ID:e8JXTbi30
「くっ! バブルこうせん!」
 目に砂が入ったギャラドスのバブルこうせんは明後日の方向に飛んで行く。
「無駄だ。ダグトリオ、切り裂く!」
 ダグトリオがギャラドスに突貫する。レッドは気づく。
(あのダグトリオがギャラドスに攻撃するためには肉迫するしかない! ならば!)
「ギャラぁ!?」
 ダグトリオの不可視の爪がギャラドスを切り裂く。しかし、ギャラドスはレッドの指示にすぐさま反応した。
「ギャラドス、ハイドロポンプ!」
「かわせダグトリオ!」
 狙いの甘い攻撃はまたも外れる、かに思われた。ギャラドスはハイドロポンプを、ダグトリオが潜った穴に直接注ぎ込む。
「む!?」
 サカキの顔が歪む。いくらダグトリオが早くても、移動できるのは地中のみ。張り巡らされた穴に高出力のハイドロポンプが注がれれば……。
「ダ……グ……」
 水浸しのダグトリオが地表から力なく顔を出し、動かなくなった。
「よし! よくやったギャラドス!」
339:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/23(土)14:45:14.59ID:e8JXTbi30
「もどれダグトリオ。行け、ペルシアン!」
 次に現れたのは地面タイプではない、高い敏捷性と鋭き爪を持つノーマルタイプのペルシアン。
 レッドがペルシアンの出始めを狙うようギャラドスに指示するが、狙いの甘いバブルこうせんをペルシアンは悠々とかわした。
「ペルシアン、かげぶんしん」
 ペルシアンの姿が分身し、地面から突き出た岩から岩へ飛び移りながらギャラドスに迫る。
「ギャラドス、たたきつける!」
 ギャラドスがペルシアン達を一斉に尻尾で薙ぎ払おうとするが、ペルシアン達はすぐさま飛び上がりギャラドスの体をその爪で散々に切り裂いた。
「ギャラぁ……」
 ギャラドスの巨体が沈む。ペルシアンの攻撃は素早く、また的確に相手の急所を突いた。
「戻れギャラドス。行け、ラッタ!」
 繰り出されたラッタは一回り大きいペルシアンに怯まずに真正面から近づいていく。
「ふっ慢心したか。今のペルシアンは一体ではないぞ!」
「慢心なんてしていないさ。かげぶんしんはあくまで回避用の実体のない分身」
「……!!」
 サカキは驚く。ラッタは複数のペルシアンの中から本体のペルシアンへ迷いなく走っている。
「ギャラドスを攻撃した時についたギャラドスの泡が、爪に残っているぞ! ラッタ、ひっさつまえば!」
「ちいっ! ペルシアン切り裂く!」
 ラッタの前歯とペルシアンの爪が真っ向からぶつかる。吹き飛んだのはラッタ、しかしペルシアンの爪が割れ、ラッタの前歯は傷ひとつついていない。
(真っ向からの衝突はペルシアンが不利、ならば!)
「ペルシアン、いやなおと」
 ペルシアンが岩を割れていない爪で引っかき、名状しがたい音をかき鳴らす。ラッタは構わず突貫した。
「ひっさつまえば!」
 ペルシアンの喉元にクリーンヒットし、ペルシアンはうめき声を上げて倒れる。
 しかし、サカキはペルシアンを戻して笑う。
「前座は終わりだ。さあ行け、ニドクイン!」
340:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/23(土)15:14:24.12ID:e8JXTbi30
(なぜ俺は戦っている)
「ニドクイン! にどげり!」
「ラッタ! いかりのまえば!」
 サカキには今、二人の自分がいる。戦いに集中する戦士のサカキ、そしてこの戦いの意味を見出せない悪のサカキ。
 レッドを邪魔と感じるならばわざわざこんな一対一の戦いなど意味は無い。レッドを消す方法等、ロケット団の力を持ってすればいくらでもある。
(この血が滾るから、そんな感じか?)
 レッドのラッタを仕留めたニドクインを見ながらサカキは自嘲した。
「行け、バタフリー!」
(いや、そんな単純なことではないな)
 サカキはレッドを見る。レッドは決してサカキを恐れてなどいない。勝利を信じ、闘気のこもった瞳でポケモンへ指示を飛ばしている。
 サカキは思い出す。こんな風にサカキに立ち向かってきたトレーナーはいただろうか。サカキが戦ってきた相手といえば、サカキを悪と断じ、ただポケモンと共に正義の鉄槌をくらわそうとしてきた者ばかりだった。
 その全てを地に伏せてきた。じゃあレッドは? 今まで戦ってきた者達と同じじゃない。レッドはただ、サカキに勝ちたいのだ。なぜレッドはサカキに勝ちたい?
「ニドクイン、かみなり」
「なっ!?」
 レッドが驚愕で目を見開く。ニドクインはバタフリーを見るやすぐに雷雲を呼び、バタフリーを光の柱で飲み込んで撃墜した。
「……戻れバタフリー。さすがだサカキ。あんたはポケモンとの呼吸も、ポケモンの強さも、あんた自身の戦術も、俺の身が震えるほどの物を持っている」
 そう言いながら、レッドは次のモンスターボールを手に取る。その瞳は燃えている。
「だが、決して俺は諦めたりはしない。あなたが巨悪の首領だからじゃない。俺のポケモン達と俺自身のために、俺はあんたに勝ちたい」
「ポケモンリーグに行くためか?」
 レッドは首をふる。
「強くありたい。戦い続けてくれる皆と同じように。そのためにどこまでも進み続ける。それだけだ! 行け! ガラガラ!」
(そうか)
 レッドはサカキに憧れている。一人で、何者をも寄せ付けない強さを持ったサカキを。
 サカキはレッドに憧れている。他者に助けられ、弱い自分を認め強くあろうとするレッドを。
(私に燻っていた感情はそれか――)
 ニドクインがサカキの指示を待っている。サカキは命令ではなく、ニドクインに語りかける。
「ふっ、文句ひとつ言わないなお前たちは。だが、俺の強さへの信頼と受け取ろう」
 ニドクインがサカキへ少しだけ振り返り、にやりと笑った。
『どこまでもついていきます。ボス』
「はは、ははははは! 行くぞレッド。我が配下とともに、全力で叩き潰す!」
「望むところだ! ガラガラ、ホネこんぼう!」
「ニドクイン! とっしん!」
350:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/24(日)21:13:01.72ID:YJF15S+90
 ガラガラのホネこんぼうとニドクインのショルダータックルが激突し、大きな鈍い音と共に空気が振動する。
 両者一歩も引かない。間髪入れずサカキの指示が飛んだ。
「にどげり!」
 ニドクインがガラガラ目掛け足を跳ね上げ、ガラガラはもろに喰らい上空へと飛ばされた。いや、違った。
(ニドクインの蹴り足に乗って自ら飛んだだと!?)
「振り下ろせ! ホネこんぼう!!」
 太陽を背にしたガラガラが空中で身を翻して回転し、その勢いのままニドクインへホネこんぼうを振り降ろす。
「カウンター!」
 ガラガラのホネこんぼうがニドクインの顔を吹き飛ばすのと同時に、ニドクインの拳がガラガラの腹部へ深くめり込んだ。
 一瞬の静寂。ガラガラの腹部からニドクインの拳が抜け、そのままガラガラが地に沈むと同時に、ニドクインがゆっくりと倒れ伏した。
「よく当てた、ニドクイン。戻れ」
「ありがとうガラガラ。戻れ」
 相棒を賞賛し、すぐに戦いへと思考を切り替える。
「行け! ピジョット!」
「行け! ニドキング!」
(ニドキング! ここで来たか!)
 レッドは武者震いした。かつてフシギバナのソーラービームに真っ向から立ち向かい、倒しきれなかった相手。
(だが、それがなんだ)
「勝つぞ! ピジョット!」
「ピジョォ!」
351:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/24(日)21:15:23.00ID:YJF15S+90
(一瞬で決める)
 サカキのニドキングは技のデパート。じめんタイプを無効化できるひこうタイプへの対策は、ニドクインと同じく万全。
「ピジョット、みがわり!」
「かみなり! なに!?」
 自分のHPを削り分身を作り出すことで、相手の攻撃を防ぐことができる技、みがわり。
 ニドキングが呼んだかみなりはピジョットの分身によって防がれる。
「まさか見抜かれるとはな!」
「ここでピジョットが何もできずに討たれたら、バタフリーに会わす顔がない! さあピジョット、決めるぞ! みがわり!」
「かみなり! くっ!」
 今度のかみなりは高速で移動するピジョットを捕らえられなかった。元々高威力と引き換えに命中に不安がある技、加えてピジョットの飛行はポケモンの中でも随一の素早さ。
 ニドキングに肉迫するピジョットは分身により一度攻撃を耐えることができる。完全に優位に立った。
(みがわりが消えたらかみなりで終わりだ。ここは一撃できめる!)
「ピジョット、ゴッドバード!」
 ピジョットが空中で静止し、羽を広げたその体が光輝き始める。
「かみなり!」
 動きの止まったピジョットへかみなりが命中する。しかし、焦げ落ちたのはピジョットのみがわりのみ。
「ニドキング!! つのドリル!」
 もうかみなりでは間に合わないと悟ったサカキ、ニドキングの角を高速回転させてピジョットを迎え撃つ。
「行けえええええ!!!」
 輝きを纏ったピジョットが羽ばたき、宙空に光の帯を引きながらニドキングへ突貫する。
 ピジョットの光輝く体がニドキングのつのドリルに激突するが、勢いは止まらずニドキングの踏ん張る足を物ともせずに押し出し、高速のままジムの壁に突っ込んだ。
 壁に大きなヒビが入る。その中心にはニドキングが力なくうなだれており、輝きを終えたピジョットが羽を広げて雄叫びを上げた。
352:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/24(日)21:18:41.47ID:YJF15S+90
「……追い詰められたのだな。私は」
 ニドキングをモンスターボールに戻し、サカキは最後の手持ちのポケモンを手に取る。
 ピジョットはレッドの元へ羽ばたいて戻る。まだ戦えるようだ。
「よくやったなピジョット、怪我はないか?」
「ピジョ!」
 レッドの残りの手持ちはピジョットとフシギバナ。
(不思議だ。ここまで来て、なぜ俺は負ける気がしない?)
 サカキは笑った。ここまできてサカキの中の勝利の確信が全く揺らがない。
 根拠も理由もない。だからこそサカキは強者たり得ている。レッドはサカキのその様子を見て戦慄した。
「行くぞレッド。これが私の切り札、大地の二つ名を得るに至った我が半身だ。行けい! サイドン!!」
 サカキが繰り出したポケモン、サイドン。マグマの中でも生活できる頑強なる肉体、そしてどんな岩をも砕くパワーと角を持つ、岩と地面の怪獣。
 サイドンはゆっくりと目を見開き、ピジョットとレッドをにらみつける。そして大口を開け、
「グオオオオオオオオ!!」
 その咆哮でジムを震わせた。
353:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/24(日)21:19:59.95ID:YJF15S+90
(地面タイプのポケモン。だが、当然ひこうタイプ対策をしているはず!)
「ピジョット! みがわり」
 レッドにとっての万全策、しかし一度見せている戦術は対策される。
 その事を見逃したレッドの甘さを、サカキがつかないはずがなかった。
「サイドン! みだれづき!!」
「なに!?」
 ピジョットが分身を作り出す間に、サイドンがピジョットに肉迫して自慢の角を連続で突き出す。
 連続で繰り出される攻撃は身代わりを消し飛ばし、自らのHPを削ったばかりのピジョットを貫いた。
「まずい! そらをとぶ!」
 なんとか耐えたピジョットが天高く舞い上がりサイドンから距離を取る。
「いわなだれ」
 サイドンが隆起している地面を腕で削り取って岩として持ち上げ、すぐさまピジョットへ投合した。
「避けろ、ピジョット!」
 上空へと舞い上がる岩の塊。しかしサカキが命じたのは岩の雪崩。サイドンはすぐさま手の平で圧力を加えて硬質化させた石を投げ、岩の塊の中心を破砕した。
 岩は空中で分解し、無数の岩の刃と化してピジョットを襲う。
「ピ……ジョ……」
 ピジョットが力なく落下し、地面にたたきつけられる前にレッドはピジョットをモンスターボールへ戻した。
354:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/24(日)21:23:08.04ID:YJF15S+90
(……怖い、怖いな。あんなポケモンとトレーナー今まで見たことがない。だけど)
 目をつぶる。脳裏に浮かぶは戦いの日々。今までもこれからも、レッドは一人じゃない。
 レッドは目を開く。 
「行け、フシギバナ!」
 フシギバナもレッドも、自分たちの勝利を微塵も疑ってないない。
「くさタイプか。岩と地面タイプの複合であるサイドンに勝ち目は薄い。……多くの者はそう考えるだろう」
「俺はあんたを見くびりはしない。皆がここまで繋げてくれた勝負、絶対に勝つ!」
「ふはは。随分とかってくれているな。ならば私も宣言しよう。一人のポケモントレーナーとして君に勝つ! 我が半身と共に!!」
 フシギバナとサイドンの瞳の中に炎が燃える。
「フシギバナ! はっぱカッター!」
「サイドン! すなかけ!」
「なに!?」
 意外、サイドンははっぱカッターをその身に受けながら、正確にフシギバナの目に砂を飛ばした。
(いや、サカキからすれば当然の戦略。フシギバナの攻撃をかわしながら、狙うは必殺のつのドリル!)
「くっ。フシギバナ、つるのムチ!」
「サイドン、あなをほる!」
 フシギバナのつるのムチは空を切り、サイドンは地面へと消える。
 サイドンの狙いは明白、フシギバナの直下、または死角から地面に出て、つのドリルで仕留めにくる。
(落ち着け……フシギバナ)
「フシギバナ、つるのムチ」
 フシギバナはレッドの意図を汲み取り、地面へとつるを差した。
(フシギバナは半獣半植物。地面へ植物体を挿せば、地面の振動を伝ってサイドンの位置を探知できる!)
355:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/24(日)21:26:06.24ID:YJF15S+90
 フシギバナの花へ太陽の光が収束する。
 サカキはフィールドをじっと見たまま動かない。
 フシギバナの眼が開く。同時に、フシギバナの背後で地面が盛り上がった。
 フシギバナが即座に振り返り光輝く花弁を向ける。サイドンが角を高速回転させながら姿を現す。
 そしてレッドとサカキが腕を振りかざし、勝利へと手を伸ばす。
「ソーラー………!! ビームウウウ!!」
「つのドリル!!」
 フシギバナから発射される収束された太陽の光。目を使わずに相手を探知した攻撃は、寸分の狂いなくサイドンへ飛ぶ。
 サイドンはつのドリルでソーラービームを真っ向から受け止めた。サイドンの体はびくともしない。
 つのドリルによって拡散したソーラービームがフィールドをずたずたに引き裂いていく。
「行くぞ! 勝利をこの手に!!」
「なっ!?」
 サカキの叫びとともに、サイドンが駆けた。つのドリルでソーラービームを受け止めながら、決して遅くない速度でフシギバナへ走る。
「ひるむなああ!!フシギバナああ!!」
 レッドの叫びとともにフシギバナが歯を食いしばり、ソーラービームの光が2倍、3倍の太さとなってサイドンへ襲いかかる。
「まだだあ!!」
 しかしサイドンの歩みは止まらない。それどころかいつの間に掴んでいたのか、手に平で圧縮させた石をフシギバナの前足目掛けて投合する。
「バナ!?」
 フシギバナの体勢が崩れ、一瞬だがソーラービームの威力が弱まった。
「グオオオオオ!!」
 サイドンはその気を逃さず、つのドリルでソーラービームを受けながら一気にフシギバナへ肉迫した。
356:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/24(日)21:27:52.46ID:YJF15S+90
「つるの、ムチィ!!」
 今度はフシギバナがソーラービームを放出しながら、つるでサイドンの足と手を縛る。
「グ……オオオオオオオオオ!!!」
 しかし、それでもサイドンは止まらない。速度を落としながらも、一歩ずつフシギバナへと迫る。
 ソーラービームの発射口と、サイドンのつのドリルとの距離は一寸もない。 
「はっぱ、カッタアアアアアア!!」
 フシギバナがソーラービームを放ちながら、つるのムチでサイドンの手足を縛りながら、背中の茂みから無数のはっぱカッターをサイドンに打ち込んでいく。
「サイドオオオオオオン!!」
 サカキの雄叫び。サイドンはフシギバナの三つの技を打ち込まれながらも、まだ倒れない。
「フシギバナアアアアア!!」
 レッドの叫びで、フシギバナが目を見開き、足を限界まで踏ん張って地面にヒビを作った。
 そして同時につるのムチがさらに何本も伸びてサイドンを縛り上げ、はっぱカッターの放出が何倍にも増えてかつ勢いを増し、ソーラービームの光線の太さがサイドンの体よりも大きい特大の光になる。
 高速回転していたサイドンの角が、砕けた。
(ああ、俺達は)
 サイドンが、光に飲まれる。
(こんな戦いが、したかったんだよな)
 ソーラービームの光で両者の視界が遮られる。
 光がやんだ時、サカキは天を見上げ、レッドは相棒を見た。
 レッドが飛び上がって片腕を天に突き上げ、フシギバナへ駆け寄っていく。
 ポケモントレーナーレッド、カントージム、制覇。
362:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/27(水)00:14:34.25ID:DuvLgYc80
 セキエイ高原はポケモンスタジアム内にあるトレーナー用ホテルロビー、待合用のソファーで待っていると、約束の時間10分前に彼は現れた。
 チャンピオンロードを踏破したばかりだというのに、くたびれた様子も見せず快活に歩いてくる。元気な姿とあどけない顔立ちは歳相応だが、対面のソファーにすわりこちらを見る目は落ち着いていて余裕がある。
「すいません、取材を受けるなんて初めてなもので。ちょっと緊張しています」
 そう言ってはにかんで笑う姿には、どこか少女のような魅力すら感じてしまう。しかし彼の胸に光る8つのバッジは、彼が今まで対戦してきた記録と映像を見る限り決して不釣り合いではない。
 今回ポケモンリーグに挑むトレーナーの中で最年少の少年、マサラタウンのレッド。挑戦から勝負後まで勝ち負けの関係ない密着取材に、彼は快く応じてくれた。
「これで一戦目で負けたらかっこ悪いですね」
 からりと笑うと場の雰囲気が一気に柔らかくなる。
 かつては愛想が悪く人前で話すのも苦手だと聞いていたが、今の君からはとてもじゃないが想像できないことだ。そう言うと、
「出会ってきたポケモンと、トレーナーの方々のおかげですよ」
 彼は笑顔のまま腰のモンスターボールをなでた。彼の小さい手は今までなにを掴み、なにをこれから手繰り寄せようとしているのか。
363:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/27(水)00:17:57.16ID:DuvLgYc80
――初めてのポケモンリーグ、緊張してる?
「そりゃあもう。7万人を収容する大スタジアムで行われるなんて、初めて聞いた時は冗談かと思った。過去のリーグもテレビで見てきたけど、いつもバトルに夢中で……。トレーナーの方やスタジアムがどんな雰囲気かなんて、想像もできない。だけど、いざバトルになれば大丈夫だと思います。ポケモンの皆がいるから。
 初めてニビジムに挑戦しにいったときも、緊張して夜遅くまでトレーニングしてたんです。いざジムに入ったら観客の方がたくさんいて、凄いところに来てしまったと緊張しきりでした。でも、バトルが始まったら関係なかった。いつも以上の力を出せたし、逆にポケモンに引っ張ってもらった。それ以降は、他のジムでの戦いでも大丈夫でした」
――ポケモンが一緒にいると緊張がほぐれる?
「間違いないですね」
――ポケモンリーグを意識し始めたのはいつだった?
「……いつだろう。思い返してみれば、これといったきっかけはなかったかもしれません。最初はとにかく勝ちたい相手がいて、次はジムを順々に巡っていこうと思っていたのは間違いないけど、リーグを意識したのは……クチバジムあたりかな」
 彼の旅はマサラタウンからスタートしている。彼が訪れたときトキワジムは休業中だったため、クチバジムはバッジ3つ目のジムになった。
――クチバジムは特別な戦いだった?
「ジム戦はいつでも特別ですね。だけど、うん、確かにあれは特別だった。ジムの観客席に町で知り合った年下の子達がいたんですけど、彼らにバトルが楽しいってことを知ってもらいたくて。バトルが終わった後に、その子たちと約束したんです、俺はカントーで一番になって有名になるから、君たちもポケモントレーナーになって名を挙げて、そしてその時また会おうって」
――チャンピオンを目指すのはその子たちとの約束のため?
「ええ。でも他にも理由は……そうだな……。……勝てそうもない相手でも、ポケモンたちと力を合わせればなんとか勝つことができた。それが本当に嬉しかったし、素晴らしい相手とのバトルは楽しくて仕方がない。だから自然とここに来たんだと思います」
――戦いのスタイルについて聞きます。君の登録メンバー編成にはどんな意図が?
「強いて言うなら、一番信頼できる。お互いの呼吸と考えがわかっているし、いつも一緒にトレーニングしてきたメンバーを選びました。一応タイプ相性も考えてきたけど、皆付き合いが長い仲間達ですね。リーグが終わった後も、多分変わらない。
 ひこうタイプが多めなのは偶然ですけど、問題だとは思っていませんね。岩や電気があいてならガラガラで受けられるし、氷タイプは水との複合が多いからフシギバナでも五分に戦えるし、ギャラドスもそう。手持ちにないタイプについても、そこはポケモンたちの技である程度はカバーするようにしてます」
――実は君の過去の公式戦ビデオを集めた時、タマムシジムとトキワジムだけは手に入らなかった。書面の記録は残っているが、どんな戦いだったのか教えて欲しい。
「特段、変なことはなかったですよ。他のジム戦と同様、すさまじいギリギリの戦いでした。タマムシジムについては、俺のフシギソウとエリカさんのクサイハナとの一騎打ち。草タイプの扱い方についてはエリカさんの方が一枚も二枚も上手で、
 クサイハナは粉技ややどりぎ、メガドレインでで優位に立ち、フシギソウは力押しするしかなかった。でも最後はソーラービームでなんとか……フシギソウ自身が頑張ってくれたことが大きいと思います。
 トキワジムについては、すいません。俺自身心のなかで整理がついてなくて。これについてはリーグが終わったら、話したいと思います」
――旅の中で、多くのポケモンとトレーナーに出会った。一番君を変えてくれたのは誰かな。
「タマムシジムでジムリーダーをしているエリカさんです。マサラタウンで初めてであった時にトレーナーとしての心得、フシギダネとの付き合い方を教わりました。
 彼女の凄いところは、ポケモンの持つポテンシャルを引き出すだけでなく、時に引き、時に激しく攻めるスイッチの切り替え方が抜群にうまい。あの日出会えたことは、本当に幸運でした」
――ありがとう。では最後に、リーグへの意気込みを聞かせてくれるかい。
「ありままの自分と仲間達で、立ち向かいたいと思います。楽しんで、そして勝ってきます」
 笑顔で去る少年の纏う雰囲気に、悲壮感や作られた感情というものは一切感じられない。
 自然体で正直な彼が、共に旅をしてきたポケモン達とどのような関係にあるか、わざわざここで書く必要もないだろう。
 8つの胸のバッジが導いた扉の先で、彼はどんな戦いを見せてくれるのだろうか。
 一つ言えることがある。彼はきっと、大舞台でほほ笑みを浮かべ、高らかに宣言するだろう。
「マサラタウンのポケモントレーナー、レッド!」
374:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/30(土)14:01:39.70ID:Y1rPXhWF0
 セキエイ高原ポケモンリーグスタジアム。
 その一室、出場ポケモン用に設けられた最後のトレーニングスペースで、レッドは6体のポケモンを出して円を作るように佇んでいた。
 メンバーはレッドの左からピジョット、ギャラドス、ラッタ、バタフリー、ガラガラ、そしてフシギバナ。
 ここを出た先にはバトルスペースへ続く通路があるのみ。既に観客たちの歓声と高らかに興奮を煽る場内アナウンスが響いている。
 レッドは直立不動のまま腕を組み目をつぶっていた。その心境は意外と静かだった。
(勝てばリーグチャンピオン。だけど、この緊張感のなさはなんだろう)
 レッドは目を開けてポケモン達を見渡した。皆緊張しているようには感じられず、気性の荒いギャラドスですらリラックスした顔つき。
(勝ちたい。その願望はある。皆一緒の想いだろう。それなら、俺が最後に皆に伝えるべきなのは……)
「皆。俺達がここにこれたのは、皆の一つ一つの頑張りがあったからだ。うれしい時も苦しい時も皆で分かち合い、その結果輝く素晴らしい舞台に立つことができた。俺は、皆を誇りに思う」
 レッドは笑顔で皆の顔を見渡す。
「いつも通り全てを出しきるだけだ。今日は目一杯楽しんで、勝とう。皆で一緒に」
 レッドはピジョットの頭を撫で、ギャラドスの頬を撫で、ラッタとバタフリーの頭を撫でる。そしてガラガラと拳を突き合わせ、フシギバナと額を合わせた。
 また皆を見渡せるように距離を取り、帽子をかぶり直す。
「行こう、皆!」
 ポケモン達が一様にレッドに頷く。以心伝心の仲間達をモンスターボールに収め、レッドはトレーニングスペースを後にする。
375:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/30(土)14:03:12.64ID:Y1rPXhWF0
 通路から見えるバトルスペースの光、聞こえてくる歓声。
 レッドは一歩一歩踏みしめながら、その輝く入り口に足を踏み入れた。
『御覧ください! 本日最後のリーグ挑戦者にして最年少トレーナー! その名もマサラタウンのレッド!!』
『わあああああああああああああ!!!!』
 轟く歓声。煽るアナウンス。一面の紙吹雪と観客席からのフラッシュが彩るリーグスタジアム。
 天井と観客席の間の超大型スクリーンには、画面を二分割してレッドと対戦するトレーナーの姿が映し出されている。
『そして初戦の相手はもちろんこの人、四天王が誇る凍てつく氷の女王! カンナ!』
 レッドに相対する四天王のカンナ。女性的な魅力を存分に溢れさせていながらスラリとしているスタイル、襟を立てたノースリーブの黒地の服と紫色のタイトスカート。
 オレンジ色の長髪をポニーテールにまとめ、知的さを感じる黒ぶちメガネをかけている姿はまさに大人の女性。
『それでは今一度、ポケモンリーグのルールをおさらいしておきましょう! ポケモンリーグは四天王と現チャンピオンとの5連戦! その全てに勝利することで、晴れて新たなるリーグチャンピオンが決定いたします! しかし今日のカンナは絶好調! ここまで全ての挑戦者をノックアウト! 本日最後の挑戦者もその憂き目にあってしまうのでしょうか!?』
「ポケモンリーグへようこそ! 私は四天王の一人カンナ。今日の挑戦者は私の氷のポケモン達によって皆氷漬け……。あなたも同じ目にあってもらうわ!」
 カンナは見た目に似合わず中々勝ち気な女性のようだ。実績と実力も見合っているから、挑戦者にとっては大きなプレッシャーになるだろう。
 しかしレッドは瞳をそらさず、真っ直ぐに宣言した。
「俺とポケモン達の熱い魂は、どんな状況であろうと決して諦めたりはしない。力を合わせ、この戦い全力で勝利をつかむ!」
 
 カンナはレッドの言葉にキョトンとした後、
「……あははッ! じゃ覚悟はいいかしら! 四天王の一人、氷のカンナ!」
 一笑してモンスターボールを構えた。レッドも応じる。
「マサラタウンのポケモントレーナー、レッド!」
『バトル開始ィ!!』
376:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/30(土)14:03:50.32ID:Y1rPXhWF0
「行きなさい! ジュゴン! オーロラビーム!」
「行け! フシギバナ! はっぱカッター!」
 レッドに去来する想い。感謝、友情、期待、勝利への渇望。
 その全てが心の中で交じり合い、一つの道筋となって新しい光を射している。
『ジュゴン戦闘不能!』
「くっ! 行きなさいパルシェン!」
「まだやれるな、フシギバナ」
 レッドの優しげな言葉に、フシギバナはこくりと頷く。
 カンナは驚いた。先ほどまで強烈な戦意を持っていたレッドが、今優しさで包むような瞳と声でポケモンと接している。
 そして、カンナとパルシェンを見据えるとすぐに戦士の顔に戻る。
(……マサラは特別なトレーナーを生むのかしら)
「だけど、簡単には負けないわ! パルシェン、とげキャノン!」
「ねむりごな!」
 フシギバナは巨体を得る事で防御力と体力が大幅に上昇した。そのポテンシャルをレッドは存分に活かす。
 ジュゴンとパルシェンの攻撃を耐えたフシギバナはねむりごなで相手を封じながら、メガドレインでとやどりぎのたねで回復する不沈艦と化す。
「はっぱカッター!」
377:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/30(土)14:04:54.92ID:Y1rPXhWF0
『パルシェン、戦闘不能! すごい、すごいぞレッド! フシギバナだけでカンナのポケモンを2体も突破したあ!』
 レッドはフシギバナの消耗を見てラッタと交代する。カンナが繰り出したのはヤドラン。
 ラッタはいかりのまえばからのひっさつまえば、ヤドランは防御力をあげながら水技で対抗する。
「きあいだめ!」
 レッドはヤドランの殻にこもる動作を見極めてラッタを強化する。そしてラッタの狙いすましたひっさつまえばは、ヤドランの防御力の上げようのない脇の下を捕らえた。
 次いでカンナが繰り出したルージュラは、レッドのギャラドスとの壮絶な肉弾戦の末相打ち。
「ここまで追い詰められるなんて……! だけど、このポケモンで勝つわ! 行きなさいラプラス! ふぶき!」
 レッドは再びのフシギバナ。ふぶきの一撃を受け、レッドは図鑑でフシギバナのHPを確認する。すると、ギリギリを示す赤いラインで止まった。
「はっぱカッター!!」
「ラ……プ……」
 ラプラスの首にはっぱカッターが突き刺さり、頭たれて動かなくなる。
「……嘘……」
 カンナの呟きをよそに、スタジアムは一際大きい歓声とアナウンスが響き渡った。
『なんとおおお!! 四天王カンナ敗れる! 勝ったのは挑戦者レッドだあ!』
 しかしカンナはふっと表情を柔らかくし、レッドへ近づいてく。
「なんてことなの。一戦目でシャットアウトができなかったのは久しぶり。勝利の要因を聞かせてくれるかしら」
「フシギバナを信じてましたから。俺達が築き上げた友愛の力を持ってすれば、きっと耐えぬくことができると」
「友愛ね……。ただ四天王の力はこんなものではないわ。こんな言葉いらないかもしれないけど、気張っていきなさい」
「はい!」
 カンナが差し出した手に応じしっかりと握手する。カンナはそのまま翻ってスマートに退場していくと、入れ替わりで今度は筋肉隆々の上半身を晒した格闘家のような男が姿をあらわす。
378:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/30(土)14:05:47.41ID:Y1rPXhWF0
 男はバトルスペースに立つと、マイク音声不要の大声を発した。
「俺の名はシバ! 人とポケモン、友愛を持ってここまでたどり着いたポケモントレーナーレッドよ! 俺と俺のポケモン達は生半可な力では突破できない不動の肉体、そして強烈な力を持ち合わせてる! 見事打ち破ってみせよ!」
「言われずとも。例えどんな障害、高き壁であろうとも、俺達の歩みは決して止まりはしない!」
 レッドがポケモン達を回復させると、アナウンスがバトルスタートをコールする。
「ウー! ハーッ! 四天王の一人、闘のシバ!」
『バトル開始!』
「行け! イワーク!」
「行け! ガラガラ!」
 ガラガラのホネこんぼうは抜群だった。イワークの固い体を打ち砕くと、次いで現れたエビワラーも正面から射ち合って相打ちに持ち込む。
「見事……だがまだ終わらん! 行け、サワムラー!」
「行くぞ! バタフリー!」
「フリィイイ!」
 バタフリーの気合は一入だった。ここで活躍しなければ、レッドに選ばれ続けておきながら今まで足を引っ張ってしまった――少なくともバタフリーはそう思っていた――自分が許せない。 
「バタフリー、サイコキネシス!!」
「ぬう!?」
 シバの呻きは仕方がなかった。バタフリーの鬼気迫ったサイコキネシスはサワムラーを一撃で沈め、岩技で倒そうとして繰り出したもう一体のイワークも為すすべなくサイコキネシスの前に沈む。
「まだだ、カイリキー!!」
 シバの最後のポケモン、カイリキー。しかしレッドとバタフリーは確信を持って技を放つ。
「今のお前なら、誰にも負けはしない。バタフリー、サイコキネシス!!」
 バタフリーに飛びかかろうとしていたカイリキーをサイコキネシスで地に落とす。カイリキーはそのとき頭を強く打って目を回し、ついに立ち上がれなかった。
『バトル終了!! またしても勝者は挑戦者、レッドォ!!』
 シバはレッドへ叫ぶ。
「どうしたことだ! ……俺が負けるとは! どうやってお前はその力を身につけた!」
「特別なことはなにもしていません。俺はバタフリーの力を最後まで信頼していたから、それだけですよ」
「信頼……負けちまったら俺の出番は終わりだ!くそッ!次にいってくれ!」
 シバは背中を向けて吐き捨てるように言う。しかし最後にカメラが捕らえたシバの表情は、笑っていた。久方ぶりに感じた悔しさが意外に嬉しかったようだ。
383:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/31(日)01:54:55.84ID:iy+ifKHv0
 シバが去ると、今度は四天王用の選手入場口から黒い霧が立ち込めてくる。
 黒い霧はそのままバトルフィールドまで広がり、レッドの視界を奪う。静かな笑い声が聞こえてくると同時に霧は渦を巻いて拡散し、その中心に杖をついた老婆が現れた。
「ククク……。あたしは四天王のキクコ。あんたがオーキドのジジイが託した二人目のトレーナーかい。なんだか垢抜けないねえ」
「それはどうも。オーキド博士とお知り合いなんですか?」
「オーキド? はっ! 昔は強くていい男だったんだがね! 今じゃただの研究者に成り下がった。まあ、後進にはいいものを残したようだがね」
 キクコがモンスターボールを手に取りニヤリと笑う。
「ポケモンは戦わせてこその存在さね。あんただってそう思うからこそ、ここに来たんだろう? 退屈しない戦いにしようじゃないか」
「戦わせてこその存在……それは、違うと思います」
「ほう?」
 レッドは手にとったモンスターボールを見る。脳裏に浮かぶはポケモンだいすきクラブでの笑顔あふれる空間、シオンタウンでポケモンを保護しているフジ老人。
「確かにポケモンバトルはポケモンと心を通わせることのできる競技。だけど、例えバトルをせずともポケモンと強い絆を結んでいる人を俺は知っています」
「けっ。あんたもオーキドみたいな事を言う。ならあたしが改めて教えてあげるよ。ポケモンバトルの真髄をね! 四天王の一人、霊のキクコ!」
『バトル開始!!』
「行きな……ゲンガー!」
「行け! ガラガラ!」
 激戦に湧くスタジアム。その映像を控室外の談話スペースで見ている人物がいる。
 四天王最後の一人にして筆頭、ドラゴン使いのワタル。
 精悍な顔つきで実に楽しそうにレッドの奮戦を見守っている。
「いいトレーナーだな。キクコにも勝つかもしれない。君は見なくていいのかい? 知り合いなんだろう?」
 ワタルは談話スペースのソファーで寝そべっている人物へと声をかける。
 今日はカンナが挑戦者を駆逐していたために、その人物は先程から待ちくたびれて雑誌をアイマスクに眠りこけている。
「あんたが負けたら起きるよ」
 それだけ言ってまた寝息を立てはじめた。ワタルは苦笑してため息をつき、テレビへと視線を戻す。
(強すぎるのも問題だな。今のチャンピオンに肩を並べる事ができるトレーナー、そんな人物がいるならばここに挑戦に来る前に名を馳せているだろう。かつての大地のサカキのように……)
 ワタルが抱いていた諦観は、今スタジアムで躍動するレッドを見て、期待へと変わりつつある。
(だが、マサラタウンのレッド。オーキド博士が託したもう一人のポケモントレーナー。彼ならばあるいは……)
 ライバルのいない競技ほどつまらないものはない。そんな感情を抱いてしまった現チャンピオンを脅かす存在が、今の挑戦者かもしれない。
『なんて攻撃だあ! またもガラガラのホネこんぼうがアーボックに炸裂う! これで3枚抜きぃ!』
(まあ、負けてやる気はないがね)
 そろそろポケモン達のウォームアップを始めなければならない。ワタルもまたテレビから目を離し、トレーニングスペースへと向かう。その顔は既に戦意に満ち満ちている。
384:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/31(日)01:55:26.36ID:iy+ifKHv0
「ゲンガー意地を見せな! ナイトヘッド!」
「ガラガラ! ホネブーメラン!」
 ゲンガーが作り出した暗黒粒子とガラガラのホネブーメランが激突する。ナイトヘッドによって空間が歪み地面に亀裂が走るが、ホネブーメランはそれを突破してゲンガーの額を吹き飛ばした。
『ゲンガー戦闘不能! 勝者、挑戦者レッドオ!』
「はっ! 敗者が言うことはなにもないよ。次の戦いに備えるんだね!」
 ゲンガーを戻したキクコは悔しげにバトルスペースを去っていく。
「キクコさん! ありがとうございました!」
「……ふん、いやなガキンチョだよ。オーキドに似てね、まったく」
 立つ鳥跡を濁さずと言っていいのか、キクコは堂々と入場口へ歩いて退場していく。
 すると今度は入場口から翼を広げた影が飛び出す。飛び出したのはトレーナーを方に掴んだプテラ。そのまま観客席の前を飛び回ると、より一層の歓声がスタジアムに響く。
『さあ現れたのはついにこの人、四天王筆頭! ドラゴン使い!』
 アナウンサーが一呼吸おくと、プテラとワタルがマントを広げながらバトルスペースへ降り立つ。
「俺は四天王の大将、ワタルだ。歓迎しよう、マサラタウンのレッド!」
388:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/31(日)20:42:55.68ID:iy+ifKHv0
 ワタルとレッドの名乗り、そしてワタルのギャラドスとレッドのフシギバナの激突。
 スタジアム全体のボルテージが上がり続ける中で、待合スペースのソファーで眠りこけていた人物の顔に被っていた雑誌がずれて地面に落ちた。
 グリーンの眼は開いている。しかし近くのテレビから流れてくる映像を見ているわけでもなく、また実況に耳を傾けているわけでもなかった。
 グリーンは努力を知らない。というのも、努力に内包されている苦しみを知らないというべきか。
 オーキド博士の孫という血筋、なにより兼ねてから物事をそつなくこなす事ができる自分の才能に自信を持っていたし、同郷のレッドと比較すればその思いはますます強くなっていった。
 しかしその確信はポケモンとの出会いで脆くも崩れさる。トキワタウンでのレッドとの二戦目、ニビジムでのタケシとの初対決。二度の敗北でプライドが崩れ去り、現実を受け止めるにはある程度の時間を要した。グリーンもまたレッドと同年代の子供にすぎない。
 グリーンの中で本当の才能があるとすれば、敗北の責任を他者に押し付けないというただ一点に尽きるだろう。レッドに敗北したオニスズメ、タケシに敗北したヒトカゲ、いずれの時もグリーンは自分自身の不甲斐なさに憤怒し、そして奮起した。そんなグリーンにポケモン達が信頼を寄せるのも時間がかからない。
 ただ時にグリーンの向上心が苛烈過ぎて他人にとっては恐怖の対象になることもあったが、グリーンはその機微を感じ取れないし、また興味もない。
 あるのはただ、勝ち続けたいという思いだけ。その果てがリーグチャンピオンという地位だったし、グリーン自身戴冠の時は一定の満足感も得られた。
 しかし、満足感は一時だった。遥かなる頂きには自分と自分のポケモン達しかいない。リーグチャンピオンという枠組みの中で、グリーンの隣にはライバルの存在がすっぽり抜けている。
 かつてはレッドがいたその場所が――。
389:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/31(日)20:48:50.98ID:iy+ifKHv0
「ギャラドス、はかいこうせん!」
「フシギバナ、ソーラービームゥ!」
 ワタルのギャラドスの口腔、そしてレッドのフシギバナの花弁から発射される特大の光線。両者に向かって伸びる光線は中間で激突し、光溜まりを作ってフィールドを揺さぶる。
「はっぱカッター!!」
 ソーラービームを放つ花弁を囲む大葉、その大葉から無数のはっぱカッターがギャラドスの顔へと向かい、ギャラドスの目元に命中する。
 たまらずギャラドスは悲鳴を上げ、はかいこうせんの放出が止む。その瞬間ギャラドスはソーラービームに吹き飛ばされ、受け身も取れずにフィールドに倒れ伏した。
『ギャラドス、戦闘不能!』
「行け、ハクリュー!」
「戻れ、フシギバナ。行けギャラドス!」
(ドラゴンタイプに小手先の技は通用しない。ならば、圧倒的な力で勝るのみ!)
 レッドの対ドラゴンタイプ作戦は至ってシンプルだった。
「ギャラドス、れいとうビーム!」
「ぬう!? ギャラドスにれいとうビームだと!?」
 ハクリューの体が氷で覆われ、ついに凍りづけになって動けなくなる。本来ワタルは氷タイプあいてにはギャラドスで対抗している。レッドの手持ちを見て力押しできると判断したのが甘かった。
 続くワタルのハクリュー、プテラもギャラドスのれいとうビームで凍りづけにされてしまう。
(カンナ、シバ、キクコをほとんど一方的に屠った相手、俺も及ばないか……)
「だが、ただでは終わらん! 行け、カイリュー!」
 降り立ったカイリュー、ひこうタイプとドラゴンタイプを合わせ持つため、れいとうビームを喰らえばひとたまりもない。
 だが四天王筆頭としての挟持、ただで終わる訳にはいかない。カイリューは幼少よりワタルに付き従った相棒。
「ギャラドス、れいとうビーム!」
「カイリュー!」
 カイリューが歯を食いしばり、ギャラドスのれいとうビームに真っ向から耐える。羽や腕が氷付き、顔もだんだんと青ざめていくが、決して膝は屈さない。
『おおっと!! カイリュー耐えたあ! 4倍の威力と化したれいとうビームを耐えるとは、なんて頑強さだあ!』
「カイリュー! はかいこうせん!!」
「グオオオオ!!」
 カイリューの口から発したはかいこうせんがギャラドスを飲み込む。獅子奮迅の活躍を見せたギャラドスも、れいとうビームを耐える程の気概を見せたカイリューのはかいこうせんを耐えるには至らなかった。
「よくやったギャラドス、行けラッタ! でんこうせっか!」
 ミリ単位で残ったカイリューのHPを、ラッタが素早く刈り取った。
「……見事だ!」 
『勝者、挑戦者レッドオオオ!! チャンピオン挑戦権獲得ううううう!!!』
 その歓声と共に、グリーンは待合スペースのソファーから立ち上がった。
390:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/31(日)20:50:33.62ID:iy+ifKHv0
 決着とともに、ワタルはレッドの元へ歩いてくる。その顔は晴れやかだった。
「おめでとうレッド君。君は四天王を寄せ付けない程の力を持ったトレーナーだ。こんなトレーナーが、短期間で二人も現れるとは思いもしなかったよ」
「こちらこそ、対戦ありがとうございました。……二人、ですね」
 レッドの呟きに、ワタルも頷く。
「四天王を突破した先が、最後の決勝戦だ。ポケモンリーグディフェンディングチャンピオンとの戦い。私が退場したら程なく始まるだろう。今のうちにポケモンを回復しておくといい」
「……はい」
(ディフェンディングチャンピオン)
 レッドの人生、走り続けてきたその道筋、いつも一歩先を行く人物がいる。
(やっと追いついたな)
 こうなることは、あるいはあの日ポケモンを受け取った時に決まっていたのかもしれない。
(いや、違うな。決まっていたんじゃない。ジムトレーナーやポケモン、エリカさんとの出会い、フシギダネとの出会い、そして、泣き虫だった俺自身。そのいずれかが欠けていても、この舞台に俺は辿りつけなかった)
 ワタルが退場しスタジアムの全ての照明が落ちる。歓声が一際沸きチャンピオンを出迎える。
 演出は一切ない。ただ入場口から歩き、散歩しているところに知り合いにあったような軽快さで、グリーンは笑顔で片腕を上げた。
「ようレッド! お前も来たのかよ! ははっ、やっぱりお前が来ないと、張り合いがねえよな!」
410:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/21(日)17:56:45.32ID:Z03kpI3k0
「……ああ。また先を越されたな、グリーン」
 レッドは落ち着いている。レッドもまた、かつてグリーンと遊ぶときに待ち合わせていた時と同じような自然体で応える。
「ほう……ちょっと変わったか。まあ、それもそうだよな! こんなところまで来るんだから、変わってなきゃおかしい。まったく、待ちくたびれたぜ……あの時、トキワシティで受けた借りを返すこの日をよ……!!」
 グリーンのにやついた笑みと裏腹に、その瞳は豪炎で燃え盛っている。猛る感情のままレッドへ言葉を放つ。
「俺はここに辿り着くまで、ポケモンバトルにおける最高のパートナー、そして最高の戦術、最高の連携を探した! 幾重もの勝利の経験が俺とポケモン達との絆を深め、気づけばリーグチャンピオンなんて肩書をもらっている。それが今の俺だ! だがな、それでも俺の頭ン中から離れないものがある!」
 グリーンが腰からモンスターボールを取って親指で弾いて上にかちあげ、上空から落ちる軌道を見ずに片手で受け止めると、そのままレッドへ突き出す。
「いつも俺の後ろをとことこと着いて来た誰かさんが、俺に土を付けた。それもまたポケモンバトルだ。この日をどれだけ待っていたか、お前に想像できるかレッド!」
 レッドは声を荒らげずに微笑んだ。
「俺も同じ想いさ。負けて得る悔しき感情に慣れを覚えず、また勝利を得る喜びを知ったその果てでグリーンが待っていたことには、俺もさほど不思議さを感じない」
「はっ! 随分と言うようになったじゃねえか! だがなレッド、まるで俺がお前のためのゴールテープのような言い様だが、お前が今立っているのは実力がものを言う世界だ。個人の感慨が深かろうが浅かろうが勝敗に左右することはない」
「わかっているさ。俺は俺のポケモン達と力を合わせた先、その光りある景色を見るためにここにきた。そのために、俺達には勝利がいる」
 スタジアムの照明がレッドとグリーンを照らした。レッドはモンスターボールを顔の前に持ってきて、俯いてボールに額をつけた。
「数えきれないほど助けられてきた旅の果て、もう自分の不甲斐なさに涙を流しはしない。この戦いで、俺は俺の持つ全ての力を出し切ってみせる」
「ははっ! だったら教えてやるよ! 例え努力し戦術を練ろうとも、決して超えられない壁があるということをな。お前にとっての越えられない壁、それがこの俺だ! 泣き虫レッド!」
 グリーンの声とともに試合開始のブザーがなり、大型ビジョンにはレッドとグリーンの横顔が相対するように並べられ、その間に6-6のスコアが表示された。すぐに場面は試合会場のグリーンに移り、グリーンは慣れた様子でカメラに映えるようにポージングして名乗りを上げる。
「リーグチャンピオン、グリーン!」 
 レッドは顔を引き締めてグリーンを直視した。
 そしてレッドは高らかに名乗りを上げる。
「俺はもう泣き虫レッドじゃない。…………俺はマサラタウンのレッド、ポケモントレーナーレッドだ!」
『試合開始ィ!!』
「行け、ピジョットォ!」
「行きな、オニドリル!」
411:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/21(日)18:03:23.78ID:Z03kpI3k0
 カントー地方を代表する2羽の巨鳥は、研鑽を積み逞しく成長した姿を誇示するようにスタジアムを旋回し、主の前で羽ばたきながら滞空した。
「借りを返させてもらうぜ」
 グリーンの顔は笑っていたが、その声には屈辱を精算せんがための憤怒にも似た激情がつまっていたことを、レッドは敏感に察した。現れた2体は進化して姿が変わっているが、レッドが初めてグリーンに勝利した戦いと同じ組み合わせだった。
 その組み合わせを二人が事前に打ち合わせたわけでは当然ないが、意図していないとは言い切れないところがある。今でも鮮明に思い出せる光景を、レッドは相棒と成長した姿として、グリーンは前述の激情がために、こうなることを期待していた。
 観客席から多くのフラッシュが光り、観客たちも最初の両者の指示を聞き逃さんと一瞬静まり返る。レッドとグリーンの声が重なり、同じ指示を相棒へ飛ばした。
「そらをとぶ!」
 既に飛んでいるじゃないかという突っ込みはこの場ではギャグにもならない。空中ポケモン同士の激突、とくに物理攻撃を得意とする2羽にとって相手よりも高所の位置取りは必須だった。高所を取れば標的の認識が容易く、また鳥足で相手を切り裂くこともできる。
 ピジョットとオニドリルは風を切るように羽ばたき、腹を合わせるような形で並んで急上昇した。オニドリルの方が頭一つ早い。
「つばさでうつ!」
 高所取りをあきらめたレッドが先制に出た。ピジョットが体の向きを変えながら翼を曲げなぎ払うように振ったが、オニドリルは感せずに上昇したために尻尾を掠めるだけ。
 オニドリルとピジョットの位置する高度が一気に広がると、オニドリルは急に体を捻って向きを入れ替え、体を引力に任せて急降下し羽を揺するように動かしてピジョットへ猛進した。
「ドリルくちばし!」
「かぜおこし!」
 ピジョットが羽ばたきながらオニドリルへ風を送り距離を取ろうとする。オニドリルは構わずに突っ込みそのくちばしでピジョットを捉えた。ピジョットの体が吹き飛ぶがすぐに体勢を立て直し、下降していったオニドリルを追いかける。
「ほう! よく耐えたじゃねえか!」
 ギリギリだった。レッドはドリルくちばしを避けられないと踏み、せめてクリーンヒットにならぬようかぜおこしで軌道をそらすよう指示した。ピジョットもレッドの意図を察し体をよじってくれたために、ダメージを最小限におさえて反撃に出ている。
 通り過ぎたオニドリルが高度をあげようと逆放物線を描くように進路を取ったため、ピジョットは高所を取りながら距離を詰めることができる。
「オウム返し!」
 ピジョットのくちばしが眼下のオニドリルへと迫る。レッドの頬には冷たい汗が流れていた。ピジョットの体力を考えれば、もう相手のドリルくちばしを食らうわけにいかない。
(これで決める!)
「読めてるぜレッド!」
 グリーンの叫びとシンクロしてオニドリルの首が上がり、同時に翼を広げたまま空中で見えない管に沿うように螺旋の軌道で横転した。オニドリルの方向と速度が変わらぬまま位置が横移動し、降下してきたピジョットのくちばしが空を切る。
 再び上下が入れ替わり、オニドリルが落下体勢に入ってクチバシの照準をピジョットへ合わせる。
 対してピジョットはそのまま着地し、オニドリルへ向き直り威嚇するように羽を広げた。
「行くぜえ、ドリルくちばし!!」
「身代わり!」
 オニドリルの急降下攻撃がピジョットが作り出した身代わりを貫く。身代わりは一瞬で蒸発したが、その瞬間グリーンとオニドリルの表情が凍りついた。クチバシがそのままの勢いで地面へ突き刺さっていて身動きがとれない。
「ゴッド……バードっ!」
「ちいっつばさでうつ!」
 ピジョットの光り輝く突進に対して、オニドリルが身を捩ってなんとか翼を合わせる。
 オニドリルの体が吹き飛び、倒れ伏して動かなくなる。しかし側頭部を強かに打たれたピジョットもまた、前のめりに崩れた。
『ピジョット、オニドリル、戦闘不能!』
 スクリーンの表示が5-5に変わる。
「いいガッツだったぜ。オニドリル」
「よくやった。ピジョット」
 両者先鋒を称え、次の腰の相棒へと手を伸ばす。
「とりあえず、追いついたぜレッド。次で差を見せつけてやる」
 まるでグリーンが挑戦者のような言葉、事実グリーンは今チャンピオンという自分の地位を忘れて、歪んだ笑みを深くして片目を閉じた。
 レッドにはその顔に見覚えがある。いつも勝負事をしてきた二人、グリーンの圧倒的な力が披露される前兆だった。
412:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/21(日)18:12:46.29ID:Z03kpI3k0
 両者KOのため2体目は同時に出現させなければならない。レッドもグリーンも相手の手持ちの情報がないため、ここからは未知の戦闘になる。
 レッドが選んだのはギャラドス。理由はある。ギャラドスは水と飛行の複合タイプ、弱点となる岩タイプと電気タイプの攻撃は、ガラガラの後だしによって回避できる。
 対してグリーンが繰り出したのは緑色の外骨格に両手を刃と化した密林の暗殺虫、ストライク。
(ここだ!)
 レッドの脳に駆け巡る閃光。絶好の奇襲チャンスだった。
「ギャラドス! 10万ボルト!」
「なに!?」
 ギャラドスから発した電光がストライクに直撃する。
 観客席で「あれはミーがプレゼントしたわざマシンネ!!」とマチスが隣のポケモンだいすきクラブ会長の首に太い腕を回して叫んでいる。
「ストライク、とっしん!」
 しかしグリーンが一瞬で冷静さを取り戻し、かろうじて生き残ったストライクへ命令する。ストライクは羽をはためかせてギャラドスへ突進するとギャラドスの顔面を蹴り飛ばし、その反動でグリーンの元へ舞い戻ってグリーンのモンスターボールから発せられたリターンレーザーを浴びる。この技はバトル後にポケモン協会によってとんぼがえりと命名された。
「サンダース!」
 ストライクと入れ替わりで現れたのはサンダース。グリーンの命令の前にサンダースの素早い電撃がギャラドスを掠めたが、なんとかレッドはギャラドスにリターンレーザーを当てた。
(サンダースが狙う交代後出始めの先制攻撃、ガラガラならば!)
 レッドの狙いはあたり、サンダースが放った電光が出始めのガラガラに直撃する。しかしガラガラは全く意に介さずホネこんぼうをサンダースへ投合した。
「ミサイルばり!」
 グリーンはガラガラの姿を見てあの時のカラカラだと一瞬で見抜き少し微笑んだが、すぐに厳しい顔へ戻す。
 サンダースの毛が逆立って波打ちと、空気を切る鋭い音を立てながらホネブーメランへと飛んで行く。ホネブーメランは空中で華道剣山のようになって勢いをなくし、サンダースに届く前に墜落した。
「じしん!」
 ガラガラが両手を地面に突き刺して大地を脈動させる。揺れた地面がサンダースを真下から叩き上げ、サンダースの体が宙に舞った。
(あさいっ)
 レッドは即座に悟り、ガラガラに追加攻撃させる。
「ホネこんぼう!」
「にどげり!」
 ガラガラが地面に落ちているホネこんぼうを拾い上げて空中のサンダースへ振り下ろす。しかしサンダースは身を捩ってかわすと後ろ足でにどげりし、ガラガラをのけぞらせた。
「ホネブーメラン!」
 のけぞったまま腕力だけで投合されたホネブーメランは着地中のサンダースに直撃し、今度こそサンダースを沈ませた。しかしガラガラもにどげりが急所にあたってしまったのか膝をつく。
「ラプラス!」
 5対4。次いでグリーンが繰り出したラプラス。水技を予想したレッドがガラガラを戻す。
 予想はあたり、ラプラスが相手の出始めを狙ったハイドロポンプはフシギバナの花弁を濡らすだけに終わった。
「へえ。いい見極めだなレッド! れいとうビーム!」
「!? はっぱカッター!」
 はっぱカッターとれいとうビームが激突すると、すぐにはっぱカッターが凍りついて粉砕されていく。しかしれいとうビームが届いた場所にフシギバナはいない。
 フシギバナはすぐにフィールドを旋回するように走ってラプラスへ距離を詰める。図体は大きくなったが決して進化前と比べて鈍重になったわけではなく、むしろ強化された筋力によってその速度は上がっている。
413:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/21(日)18:19:19.28ID:Z03kpI3k0
「しびれごな!」
 そしてエリカから学んだ草ポケモン特有の戦術。例え弱点が多くても五分以上に戦える術がレッドとフシギバナにはある。
「みがわり!」 
「れいとうっ……ちいっ!」
 ラプラスがしびれて動けず、グリーンが舌を鳴らした。
「はっぱカッター!!」
「れいとうビーム!!」
 れいとうビームがフシギバナのみがわりを破壊すると同時に、れいとうビームを避けるように曲線を描いたはっぱカッターがラプラスに直撃する。ラプラスの甲羅がない頭から首を正確に撃ちぬき、ラプラスが頭を垂れて動かなくなった。
 5体3。
「ストライクゥウ!!」
 グリーンが苛立った声を隠さずにストライクを繰り出す。観客は挑戦者の奮戦ぶりに熱気と期待を膨らませていく。
「レッドォ頑張れ!! 勝てるわよお!!」
 観客でカスミのような声援を送るような人物は多くいた。カスミの隣で戦況を見つめるタケシもまた、レッドの有利な展開に対して頬がゆるむ。
 しかしレッド、そしてグリーンの並外れた実力を知る者、観客席のフジ老人とナツメだけは反応が違った。
(彼の実力、これだけではなかろう)
(気をつけて……レッドっ)
(なんだっ。何を狙っている!?)
 レッドの心に浮かぶは焦燥と不安。グリーンの強さをよく知っているつもりのレッドからすれば、この戦いぶりにはグリーンの意図を感じてならない。
 苛立った様子を隠そうともしないグリーン。レッドは演技にしか見えない。まるでレッドに勝利への期待を抱かせた上で叩き落とす算段があり、手持ちの数体の犠牲と観客達の新たなチャンピオンの誕生を願う雰囲気諸々全てをベールに、グリーン自身が狙う勝ち筋を包み隠しているように見えて仕方がない。
 レッドが争ってきたグリーンとは、そういう人間なのだ。
「しびれごな!」
「きりさく!」
 ストライクがフシギバナへ肉迫すると同時にフシギバナはしびれごなを散布する。ストライクの鎌はフシギバナの頬を掠めるにとどまり、レッドはすぐにフシギバナをラッタに交換した。
「ひっさつまえば!」 
「きりさく!」
 ラッタの前歯とストライクの鎌が激突する。しかししびれごなを受けたストライクは手数で押され、羽を使い距離をとろうとした所でラッタのでんこうせっかに吹き飛ばされた。
 これで5対2。
「ゲンガー!」
 グリーンの苦虫を潰した表情は変わらない。ゲンガーに対して攻撃する術がないラッタはゲンガーのサイコキネシスをなんとか耐えると、レッドの元へ舞い戻りバタフリーと交代する。
「バタフリー、サイコキネシス!」
 ゲンガーとバタフリーのサイコキネシスの激突。紫色のねんりきがバチバチと音を立てて空間を歪ませるが、毒タイプを持つゲンガーは時間が立つにつれ根負けした。
 グリーンは倒れたゲンガーを戻す。レッドはバタフリーを傍らに、無言だった。
「……」
「……」
 表示だけなら5対1。しかしレッドは自身が勝利間近だとも、グリーンが弱くなっているなどとも微塵も思っていなかった。
 レッドの脳裏に強烈に焼き付いている光景、シルフカンパニーでロケット団員の数多のポケモンを薙ぎ払ったであろうグリーンの相棒。
 その一体が出てきた時、一体どうしたら勝てるのか。レッドの頭の中で最適解が一切浮かばない。その焦りがレッドの額から頬へ一筋の冷や汗として流れ、グリーンの片方の口端を吊り上げさせた。
「リザードン、ショータイムだ!」
414:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/21(日)18:27:28.95ID:Z03kpI3k0
 グリーンがボールを放る。モンスターボールが開くと共に爆炎の竜巻が巻き起こり、竜巻の中心から一対(つい)の翼が爆炎を薙ぎ払うように回転し、現れた龍は大きく羽を広げると同時に顎を開き雄叫びを上げた。
 その姿が現れた瞬間、ワタル等グリーンの実力を知る一部の者達が戦慄した。
 控室で戦況を見守るワタルはグリーンが見せてきた実力を思い返す。
(グリーンの5体までを突破することは俺もできた。しかし、リザードンは違う)
 強き者はまた強き者の実力を知る。その例に漏れず、バタフリーとレッドはリザードンの並々ならぬパワーを見ただけで悟った。
 控室にはワタル他、四天王達が揃っている。
「オーキドの孫の勝ちだね」
「どうして?」
 キクコの呟きに、カンナが疑問の声を上げる。ワタルが解説した。
「グリーン君の手持ちは、言うなればリザードンの1トップ型。リザードンを活かすための戦術であり、リザードンの苦手なタイプを他の5体で弱らせ、あとはリザードンが圧倒的な力で一掃する。相手は満身創痍になった状態で、チャンピオンの最大の切り札を相手にしなければならない。グリーン君の試合が交代合戦になるのはグリーン君自身がそう仕向けているんだ。戦いの中でレッド君の全ての手持ちを把握し、そして今回はギャラドスに狙いを定めた」
「リザードン」
 グリーンが天へ片手を伸ばして名を呼ぶと同時に、リザードンの牙の隙間から炎が漏れる。
 レッドの思考が駆け出す。
(交代は無意味。バタフリーに相手を倒すだけの決定打はない。ならば!)
「バタフリー、どくどく!!」
「かえんほうしゃ」
 グリーンが伸ばした腕を目標物へ向けると同時に、リザードンが起こした大炎がバタフリーを飲み込んだ。
「……よくやったぞ、バタフリー」
 レッドが倒れ伏したバタフリーへリターンレーザーを当てる。 
 バタフリーは恐怖しながらも、レッドの命令に忠実に従っていた。捨て駒にせざるを得なかった相棒に対してレッドは涙をこらえて、グリーンへ戦意を向ける。
「行け。ギャラドス!!」
 ギャラドスがリザードンに対峙するのと同時に、今大会最大の歓声が鳴り響いた。リザードンとギャラドスの一戦が最後の分岐点であることを、この戦いを見つめる全ての人間がわかっている。
「足掻けよ最後まで」
 グリーンの言葉はそれだけだ。
 ギャラドスはサンダースの一撃を耐えたのが奇跡だった。そしてギャラドスの目に宿る闘志は、まだ水技を繰り出す余力があることを示している。
「行くぞギャラドス! ハイドロポンプ!」
「大文字!!」
 ハイドロポンプと大文字の激突。ここでもまたリザードンは規格外の強さを示した。
「ハイドロポンプが……蒸発している!?」
 ギャラドスが放った水流は大文字によって相殺され、リザードンとギャラドスの間に大量の水蒸気を発生させた。その霧を切り裂くように、リザードンがギャラドスへ突撃する。
「切り裂く!」
「かみつく!」
 ギャラドスのかみつきを食らいながらもリザードンが構わずその爪でギャラドスを襲う。ギャラドスが倒れ伏すと同時にレッドの最後の望みが絶たれた。
415:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/21(日)18:34:22.95ID:Z03kpI3k0
(……まだだ!)
 レッドの闘志は尽きていない。しかし、ため息に変わった会場の雰囲気をレッドは察していた。
「……行け、ガラガラ!」
(最後まで、足掻いてみせる。恥かしくない戦いをしてみせる! 例え勝利できなくても……!!)
「ガラガラ、じしん!」
 ガラガラは滞空するリザードンに目もくれずホネこんぼうを大地に突き刺して大地を脈動させる。
(レッドとガラガラの目、血迷ったわけではなさそうだ。なにをする気だ?)
 グリーンはすぐに答えを得た。ガラガラが起こした地震によってバトルフィールドが所々ひび割れ、大きく柱上に隆起し即席の岩場と化す。
 ガラガラはすぐに身を岩場に隠した。隙を伺い奇襲するつもりだろう。
「なるほど、確かに北風ならまどうところだ。だがリザードンは太陽にもなれる! ほのおのうず!」
 リザードンが放った炎は岩場の間をぬうように進み、地上そのものの温度を急上昇させる。たまらずガラガラが灼熱の地上を避けようと岩を駆け上がった。
「大文字!」
 ガラガラは岩場の上で勇敢にホネこんぼうを構えたが、グリーンは付き合わずに大文字で薙ぎ払った。
 スクリーンに表示される2-1のスコア。
「戻れ……ガラガラ。行け、ラッタ!」
 会場の空気、グリーンの確信、レッドの尽きかけている心の炎。全てを理解していながらラッタはリザードンへ駆け出していく。
「ラッタ、ひっさつまえば!」
 レッドが声を飛ばす。ラッタは岩場を高速移動で飛び跳ねながらリザードンへと距離を詰める。その鬼気迫る猛進が生む一つの奇跡。リザードンがラッタを捉えきれず姿を見失った。
「後ろだリザードン!! かえんほうしゃ!」
 初めてグリーンの怒号が飛ぶ。ラッタは岩場を影にしながらリザードンへと飛び上がり、ひっさつまえばを食らわさんとリザードンへと肉迫する。
 しかしリザードンの口から吐出される炎の方が早かった。ラッタの体を炎が包む。しかし、ラッタの勢いは止まらない。リザードンの炎がラッタの根性に火を付け、ひっさつまえばがリザードンの首に炸裂する。
「グォ……!」
 リザードンが一瞬呻く。が、リザードンはそのまま着地して戦闘続行可能であることを会場に見せつける。対してラッタは技を放ったまま空中で気を失い、地面に激突する前にレッドがリターンレーザーを当てた。
 レッドの頬に、一筋の涙が伝う。
(なんて根性だラッタ……。俺の命令以上のことをお前は……。ありがとう)
 レッドはフシギバナが入っている最後のモンスターボールを掴む。
 グリーンの圧倒的な力、ポケモンとの呼吸、トレーナーとしての強さ、やっぱりグリーンの方がつよい。
 諦めたくない。だが、レッドは力の差を確信してしまっていた。
「行け、フシギバナ」
 スコアに刻まれる1対1。
 レッドはもう、勝ちを望んでいない。フシギバナを呼んで一度振り返らせて、目を合わせた。
(いい戦意だフシギバナ。わかった。最後まで付き合う)
「さあフシギバナ……フシギバナ?」
416:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/21(日)18:37:39.70ID:Z03kpI3k0
 フシギバナはリザードンへ向き直ると、雄叫びを上げた。まるで勝利を諦めたレッドを奮い立たせるように。
 いや、間違いなくそのための雄叫びだった。レッドはそう確信しながらも、体の中の炎が燃え上がらない。
(フシギバナ……。いいんだ。お前たちはよくやってくれた。かつて泣き虫だった俺にとって、身に不相応のたくさんの栄光と絆をもたらしてくれた。俺はもうこれ以上、なにもいらな)
 本当に?
「…………え」
 フシギバナがリザードンへ駆け出していく。その背中が、音のない言葉をレッドへ向ける。世界がレッドとフシギバナだけになったように、時がとまる。
『本当に、もうなにもいらないのか』
(俺は……、俺がここまで来れたのは、皆がいたからだ。皆がいなければ、俺はなにも為すことができなかった! 俺自身の力なんて一体どれだけ役に立ったか……!)
『馬鹿言うなよ。相棒!』
(……!!)
 レッドの心に扉が開く。後は、進むだけ。
「レッドさん!!」
「……!」
 歓声の中確かに聞こえた、聞き間違うはずのない声。レッドの背中を押す、最後のピース。
 全身にほとばしる激情、相棒とともに今一度前へ。
(ああそうだな、フシギバナ)
417:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/21(日)18:42:52.94ID:Z03kpI3k0
 レッドの表情の変化。それに気づいた多くのレッドを応援する人々。
「レッド、降参するなら待ってやるぜ!」
 リザードンをフシギバナへ向かわせながらグリーンが叫ぶ。だがレッドは帽子のつばを指で弾いて跳ね上げ、言葉に闘志を込めて放った。
「俺は決して諦めない。俺の一つ一つのバッジに込められたポケモントレーナーの魂が、あきらめようとする俺の心の背中を押してくれている。俺と仲間達の心と体を炊きつけて大炎となり、唸りを上げている!」
 そうだ。何故業火に包まれながらもバタフリーはどくどくを正確にリザードンに当てた。
 何故ギャラドスは傷ついた体を奮い立たせてハイドロポンプを放った。
 何故ガラガラは相手を傷つけるでもないレッドの指示を疑わなかった。
 何故ラッタはレッドが言葉にしなかった岩陰の奇襲戦法を行った。
 ピジョット。グリーンに初勝利するに至った最大の功労者。此度ピジョットが見せた最後のガッツでオニドリルと相打ったのをもう忘れたか!
「そうだよな、フシギバナ。この心意気と記憶、体中についた傷とその再生が導いてくれた一筋の栄光への道。俺達は決して歩みを止めたりはしない!」
 レッドの脳裏に点在する勝利への戦術点が雷光の如く線でつながっていく。
(バタフリーがもたらした猛毒、ギャラドス、ガラガラ、ラッタが削ってくれた体力。フシギバナの一撃ならば、きっと。いや、必ず!!)
「フシギバナ、みがわり!」
「リザードン、かえんほうしゃ!」
 フシギバナの身代わりが一瞬で蒸発する。しかし何とかフシギバナは自身を覆う大きさがある岩まで走り身を隠した。
 限界まで時間を稼ぎ一撃を狙う。フシギバナの最後まで勝利を狙う動きに、会場のボルテージが限界を突破する。
 岩場でフシギバナが再び身代わりを作り出す。体力的に最後の身代わりだった。
「レッド、来いよ。全部ひっくるめて叩き潰してやる」
 グリーンの声がレッドに届いた。レッドはフシギバナと視線を交わして頷く。そして、フシギバナが岩場から姿を表した。
(レッドのフシギバナの身代わり。あれはソーラービームを貯めるための身代わりだ。観客たちもお前も奇跡を望んでる。だがなレッド、どう計算したって削り切れないぜ。口惜しいが、ノーチャンスだ)
 グリーンの思考と同じ答えを出したトレーナーは多くいた。ワタルやキクコはもうグリーンの勝利を確信しているし、観客席で見つめるカツラもまた、炎ポケモンのスペシャリストである自身の知識からリザードンが耐えることを確信していた。だがカツラはその確信を覆す奇跡をレッドに願っている。
 リザードンの牙から炎が漏れだし、フシギバナが背中を揺らした。お互いにもう、命令を待つだけ。
 グリーンとレッドが叫ぶ。
「かえんほうしゃ!」
「はっぱカッター!」
『!?』
 レッドは血迷ったのか。グリーン含め多くの人間がそう思った。身代わりがあるこの局面、なぜはっぱカッターを?
418:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/21(日)18:51:50.70ID:Z03kpI3k0
 しかしレッドとフシギバナの瞳に一点の曇りなし。かえんほうしゃがフシギバナの身代わりを燃やし尽くすと同時に、炎を避ける曲線を描いたはっぱカッターがリザードンに直撃した。
 リザードンは倒れない。フシギバナを守る壁はもうなにもない。
「終わりだ、レッド! 火炎放射!」
 レッド、フシギバナ、それ以外のすべての人々がグリーンの勝利する未来を見た。
 いや、レッドとフシギバナともう一人だけ例外がいる。
 彼女はレッド達を誰よりも理解している。だからこそわかる。
 あの日マサラタウンでレッドに教授した、ポケモンと絆を育むための言葉が、今体現されようとしている。
 マサラタウン、レッドが旅立つ前に行った最後のトレーニング。レッドのフシギダネとエリカのナゾノクサの戦い。
 ナゾノクサの攻撃にフシギダネが弾き飛ばされる。不安の色を浮かべたレッドに、エリカが精一杯伝えた言葉。
「レッドさん。ポケモン達の頑張りを信じて。どんな苦境に立たされてもポケモン達の勝利を信じて信じ抜いて。そうすればいつだってあなたのポケモン達は」
 ピジョットも、バタフリーも、ギャラドスも、ガラガラも、ラッタも、フシギバナも、いつだって。
「あなたが勝つって、信じていますから」
420:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/21(日)19:05:59.53ID:Z03kpI3k0
 グリーンが大文字を叫ぶ。レッドは笑った。
(フシギバナ、ありがとう)
 フシギバナの花の中心に光が収束する。今更ソーラービームなど遅い。ますますグリーンが勝利を確信する。
 相性差を跳ね返すための一撃、レッドはいつだって学び、それを活かしてきた。
「………はかいこうせん!!」
 レッドの言葉とともに、フシギバナが放った光は大文字をかき消し、リザードンを飲み込む。
 その光景を観戦しに来た7人のジムリーダー、ポケモンだいすきクラブ会長、フジ老人、海を超えた時差の中チェレンや寝ぼけ眼をこするベル等と共にテレビにかじりつくブラックとホワイト。そして草原の中ヒノアラシと共にラジオ聞いていた少年が、手に持っていた黄色と黒の帽子を落とす――。
「ポケモン、人によって捕獲され、支配され、戦わされ、命じる主人は友情を謳う。言語を発せず感情も曖昧、絆など所詮人の思い込みでしかない。モンスターボールから開放されたポケモンがどれだけ主人の元に残ると思う?」
「従う相手との友愛を錯覚して、一つの生物の生き死にを握った自分の罪から目を背ける。そんな奴らが心底嫌いだった。悪として、一度手に入れたならば道具として接することに何故徹しない」
「種族を超えた友情を謳うならば何故モンスターボールなんてものがある? なあレッド、人とポケモンが心を通わすことができるのならば……今の世の中は、どこか間違っているんじゃないか?」
 今思い出す。純粋な疑問をレッドへ向けるサカキを。
「つまらん事を聞いたな。忘れてくれ」
 ふっとサカキは表情を崩し、レッドを称える。サカキの澄み切った笑顔に、レッドは声が出なかった。
「こんなボスでは人心も離れよう。ロケット団は解散する。じゃあな」
「……これから、どこに行くんだ?」
 サカキはレッドへグリーンバッジを放り、背を向けて歩き出す。
「ポケモントレーナーとしての高みを目指し続けているならば、また会うかもな」
 サカキがジム奥の暗黒に消えていく。
「レッド、お前にはポケモンとの真の絆がある。ポケモンと接してきた多くの人間達が目指したものに、お前はなれるだろう」 
 あの時、何も言えなかった。
421:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/21(日)19:10:07.12ID:Z03kpI3k0
(サカキ、俺が皆と一緒に見つけた答えを、今度会ったら伝えるよ)
 1−0のスコアが表示される。グリーンが震える手でモンスターボールを掴み、倒れて動かないリザードンにリターンレーザーを当てる。
『新っチャンピオン!! レッドォォォォオ!!!!』
 アナウンサーの絶叫とともに、スタジアム上部から黄金の紙吹雪が一斉に放出され、色とりどりの花火が断続的に空を彩る。
 レッドはゆっくりと歩いてフィールドのフシギバナに向かう。
 フシギバナがレッドへ顔を向ける。レッドのくしゃくしゃの顔に釣られるように、フシギバナの目に涙が浮かんだ。
 マサラタウンで出会った二人。フシギダネはフシギバナに進化し、レッドもまた外見も内面も大きく成長した。
 だが変わらないことがある。
 二人の心を繋ぐ光はいつだって切れはしない。今までも、そしてこれからも。
「勝った……勝ったぞ……! フシギバナ……お前と俺と……皆で! やった……! やってやった……! 俺たち皆で……やってやったぞ……!!! 勝ったぞ!! 勝ったぞ!! うああああ!!!!」
 レッドがフシギバナと額を合わせ、喜びに泣き叫んだ。グリーンが見ている、観客が見ている、世界中継するカメラが見ているが、関係なしに泣き叫んだ。
 そしてそれを否定するものも、冷やかすものもいやしない。
「おい、レッド!」
「あ……」
 グリーンの呼びかけにレッドが気づく。グリーンは大型スクリーン下のスペース、円形に設けられた王座を指さしている。
「さっさとステージの中央に行ってこい。あそこが殿堂入りを登録する場所だ」
 それだけ言うと、グリーンはレッドが入場してきた挑戦者用の入場口へ向かう。グリーンはレッドとすれ違いざま、「ガラガラ泣かすなよ。あと次は負けねえから」とだけ言い残した。レッドとグリーン、二人にとってそれだけで充分だった。
 レッドはフシギバナを戻す。そして「レッド」とコールし続けるスタジアムの中、玉座へと続く階段を登る。
 登り切った先のステージには、穏やかな笑みを浮かべたオーキド博士が待っていた。
「グリーンの初防衛戦があると聞いて飛んでくれば、もう勝負がついておったわい。だが来てよかったぞ。新たなチャンピオンの誕生を見ることができるとは。おめでとうレッド」
422:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/21(日)19:15:14.21ID:Z03kpI3k0
 玉座の後ろにはレッドの腰の高さの立方体の機械があり、その上部には綺羅びやかに装飾された6つのくぼみがある。
「さあチャンピオン。共に戦ったポケモン達を、ポケモンリーグの歴史に永遠に記録しようではないか!」
 レッドが頷く。そして一つずつ、仲間達が入ったモンスターボールをくぼみに当てはめていく。
「ピジョット」
 優美なる大鳥。
「ギャラドス」
 勇気ある昇り龍。
「バタフリー」
 不撓不屈の蝶。
「ガラガラ」
 冷静なる戦士。
「ラッタ」
 根性の疾風獣。
「フシギバナ」
 全てを共にした相棒。
 最高の仲間達がスクリーンに順々に姿を表わしていく。
 そして最後に映し出されるレッドの姿。気づけばステージを囲むように多くの観客が席を離れて詰めかけてきている。
 タケシが微笑みながらレッドへサムズアップする。マチスがだいすきクラブの会長と肩を組んで体を揺らしてなんか歌っている。
 キョウはレッドと目を合わせると微笑み、そしてすぐに身を翻して姿を消す。隣にいたアンズはレッドへ賛辞を叫ぶのに夢中でキョウが姿を消した事に気づいていない。
 カツラとフジ老人が拍手しながらレッドに頷く。ナツメが拍手しながらときおり目尻の涙を拭う。
 あの人は、カスミに伴われていた。いつもの優雅な和服姿、しかしカスミに急かされながらも顔をあげようとしない。
 レッドが名を呼ぶと、体をびくりと震わせた後、ハンカチで目元を拭いながらゆっくりと顔を上げた。
「……おめでとう、レッドさん」
 涙で濡れている頬、震えている唇。だがレッドが今まで見た中で、一番のエリカの美しい笑顔。
「ありがとう」
 殿堂入り装置の機械が光った。殿堂入り登録とともにポケモンの回復が終わった合図だったようだ。
 そして全てのモンスターボールにポケモンの出現信号が送られ、レッドの回りを囲むように仲間達が現れる。
 そのタイミングでオーキド博士からポケモンリーグトロフィーが授与される。
 鳴り響く歓声。優勝者を称える荘厳な音楽。笑顔で各々叫ぶポケモン達。
 レッドは仲間達を見渡し快心の笑みを浮かべたあと、トロフィーを両手で持ち、頭の上へ掲げた。
423:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/21(日)19:21:57.68ID:Z03kpI3k0
 レッドの密着取材を終えたエニシダは、ポケモンジャーナルへ寄稿するとカントー地方から姿を消したという。彼に近いものはどこか遠くでデカイ事をやりたくなったと聞いているようで、彼の身を案じているものはいないようだった。
 ジムリーダー達は相変わらず多忙な日々を送っている。ポケモンリーグ後、セキチクシティジムリーダーが正式にアンズになり、またトキワジムリーダーは空位となり後任が決まるまでキクコが代行することになった。
 レッドはリーグチャンピオン戴冠後、すぐにチャンピオンの座を返上した。これ自体は大したニュースにはならなかった。リーグチャンピオンは代々、グリーンのように防衛戦を行うためセキエイ高原に残るものと、即返上するものと半々の割合らしい。また新シーズンでは現四天王を含めた多くのトレーナー達がしのぎを削ることになるだろう。
『以上、新チャンピオン、レッド選手の素顔でした。次のニュースです……』
 マサラタウンの自室。レッドは何の気なしにテレビをBGMにし、カーペットの上に座りながらリュック内の荷物を確認していた。モンスターボール6つも腰に付けており、今から準備することは特になくなっている。
「レッドさん」
 そう甘い声を出しながらエリカがレッドへ後ろから抱きつき、レッドの首へ腕を回しながら頬をつけ合う。レッドも微笑みながらエリカの腕に手を添え、顔を気持ちエリカへかたむける。
 エリカの表情はうっとりとしていながらどこか切ない。薄く目を開きながらレッドの頬に唇をつける。
 エリカとレッドは二人きりになるとよく互いの体温を感じ合っていたが、今日は格別エリカが甘える度合いが強い。
「すぐ戻ってくるよ」
「嘘。レッドさんのすぐはどれくらいですか?」
 エリカのすねた声にレッドが困ったように笑う。レッドの旅支度、彼はこれからチャンピオンだけが探検を許されるハナダの洞窟と、セキエイ高原より西にあるシロガネ山を踏破するための準備をしていた。
 またレッドはその踏破が終わったあと、さらに広い世界をめぐることをエリカに告げている。
(わかっていたけれど)
 レッドがそういう選択をすることを、エリカは予測していた。しかし期待はしていなかった。これからはカントー地方で二人で一緒に。期待していたのはそんな夢想。
「離れたくないです」
 エリカがレッドの耳元でささやく。しかし言葉と裏腹に、エリカの心の中で踏ん切りはついていた。レッドを待つ、いつまでも。エリカの囁きはちょっとした意地悪に近い。
 好いた女にそんなことを言われたら当然レッドの心が波立つ。レッドはふと思いつく。
「ハナダの洞窟とシロガネ山の踏破が終わったら、一緒に世界をめぐりたい。エリカさんと一緒に」
 エリカの瞳を正面から見つめ、穏やかに言う。エリカは反射的に「はい」と答えて少し狼狽したが、すぐに視界一面がレッドで埋め尽くされて甘い味を感じ、目を瞑って堪能した。
 レッドは草原の中回想を終え目を開ける。天気は快晴、少し風が強い。
 シロガネ山の山頂が遥か先に見えるこの場所で、レッドは隣のフシギバナに手をついて一つ息をつく。
「さて、準備はいいか皆?」
 レッドの後ろにはピジョットとラッタの姿。今レッドはポケモン界に徐々に浸透しつつあるトリプルバトルの練習も兼ねてシロガネ山に挑もうとしている。
 エリカからの手紙にはいくつもの時代の変遷がレッドへ伝えられている。カスミとの協力の下発表されたポケモンの性格による得意分野の発見や、オス・メスの判別、別地方からのダブル・トリプルバトルの普及、ポケモンのたまごの発見など。既にレッドの最年少優勝記録の偉業なんて風化しつつある。
 しかしレッドは自身の優勝記録なんて少しも気にしてなかったし、むしろ変わりゆく世界が魅力的に見えて仕方がない。
 エリカからの最新の手紙に同封されていた写真。レッドが発見した未知の鉱石によって進化したクサイハナ――キレイハナというらしい――の姿が写っている。
 頂点など過去の話。レッドとポケモン達は際限のない未知の世界へ進むのが楽しみで仕方がない。
「行くぞ! 皆!」
 次代に向かい雄叫びを上げ駆け出す3匹、ラッタ、ピジョット、フシギバナ。
 レッドは誰よりもいち早く、新たな光へ疾風のように駈け出している。
END
424:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/09/21(日)19:24:43.45ID:Z03kpI3k0
最後まで読んでくれた方、ありがとう。感想も嬉しかったです。
またポケモン作品書きたいなあ。ではまた。
425:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/21(日)19:33:43.15ID:jLdXeEkM0

久々にポケモンの良ssに出会えた
サカキとかグリーンのその後も気になるところ
426:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/09/21(日)19:36:44.13ID:CsF4E/o2O

完結は嬉しいけど寂しいな
427:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/09/21(日)19:38:49.95ID:zHbkHZcuo
お疲れさまでした。
ジョウトやホウエンを書いてほしいと思う反面これ以上のものは無いという感覚
終盤に向うにつれて微妙に性格や特性をバトルに盛り込んでて巧いと思った

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